第163回 出版翻訳家デビューサポート企画レポート⑦
面識のある編集者さんに持ち込むという提案に、Iさんは躊躇されている様子。伺ってみると、前回リーディングのお仕事をしてから半年ほど時間が経ってしまったとのこと。また、年末にご挨拶状を差し上げたものの、お返事もないので、自分からはもうご連絡しないほうがいいのではと思っているそうです。
「自分からはもうご連絡しないほうがいいのでは」という思考パターンは、今回ご応募いただいた他の方々にも見受けられました。読者のみなさんの中にもきっと多いのでしょうが、もったいないことだと思います。連絡をすれば、その先にいろいろな展開があったかもしれないのに、自らそれを断ってしまっているのですから。
この思考パターンの背景には、「自分なんかが連絡したら迷惑なのでは……」という遠慮があるようです。もっと厚かましくていいくらいの経歴があるのに控えめなのも、きっと読者のみなさんにも共通する点なのでしょう。実際、Iさんは素晴らしいキャリアをお持ちで、もし私がそんなキャリアを持っていたら「ワタクシが翻訳してあげてもよくってよ?」と「上から翻訳者」になってしまいそうですが、まったくそういうところがないのです。
こういう謙虚さは人としてとても大切なことではありますが、自己肯定感の低さにもつながりますし、危険な部分もあるのです。「自分なんかが」と思っていると、相手もそれを感じとるため、「この人にはこんな対応をしてもいいのではないか」とぞんざいな扱いを許してしまうことになりかねないからです。逆に、「自分は素晴らしい存在だから、ちゃんとそれに見合った対応をしてくれるはず」と思っていると、相手もぞんざいにはできないものなのです。
とはいえ、なかなかすぐに切り替えられないのもわかります。そういう場合は、自分の考え方が、相手にとって失礼ではないかと考えてみてください。連絡したら迷惑だというけれど、相手は露骨に迷惑がるような嫌な人物なのでしょうか? そんなに狭量なのでしょうか? 自分を見限ることは、相手の人間性を見限ることでもあるのです。だから、相手のことを信頼するつもりで関わりをとり続けてみてください。
もちろん、それでもお返事がいただけないこともあるでしょう。そういうとき、私は、「何かご事情があったんだろうな」と思うようにしています。忙しいのかもしれません。体調を崩しているのかもしれません。家庭のことで身動きがとれないのかもしれません。そう思って、お元気でいてくださることを願って、次に進みます。
Iさんのケースを見ても、そもそも編集者さんは忙しいので、半年なんてあっという間に経ってしまうものです。それに、年末年始はご挨拶状も多いので、一律にお返事をしないという方もいます。そんな事情をお話しして、Iさんにはその編集者さんにぜひアプローチすることをおすすめしました。
今回のサポート企画を通して感じたのですが、自分ひとりだとやらないことでも、このような企画に参加して「実際にやってみてフィードバックを提供する」となると、やらざるを得なくなるんですよね。それに、みなさん根がまじめなので、「やってくださいね」と言うとちゃんとやってくださるのです。コーチングに近いのかもしれませんが、こうして行動せざるを得ない仕組みにしておくと、進めていきやすいのかもしれません。
さて、嫌々ながらも(?)編集者さんへのアプローチを試みてくれたIさん。すると……次回に続きます!
※新刊『古典の効能』が発売中になりました。
※『心と体がラクになる読書セラピー』が発売中です。全国のジュンク堂書店さまのhontoブックツリーコーナーでも展開中ですので、お出かけの際はぜひお立ち寄りください。
※この連載を書籍化した『翻訳家になるための7つのステップ 知っておきたい「翻訳以外」のこと』が発売中です。電子書籍でもお求めいただけますので、あわせてご活用くださいね。