第158回 出版翻訳家デビューサポート企画レポート②
出版翻訳家デビューサポート企画にご応募いただいたみなさま、ありがとうございました! 国内はもちろん、アメリカやイギリス、イタリア、ブラジルからもご応募いただき、いろいろな国に読者がいらっしゃることを実感できました。
お寄せいただいた企画は、アーティストの評伝、医療現場を舞台にした短編小説集、専門的な療法の事例集、専門的なメソッドを子ども向けに解説した絵本、社会派のグラフィックノベル、動物を主人公にした名作古典絵本、社会派の長編小説、フェミニズム文学、はたまた雑誌の創刊企画まで……!
みなさんよく探してこられたなあと感心するとともに、まだまだ世に出るべき素敵な原書があることにワクワクしました。受付順に企画書を拝見してフィードバックを差し上げ、ご用意のできた方とはZOOMでお話をして、今後の進め方についてアドバイスをさせていただいています。
企画書を拝見しながら、この連載の読者の方々はこんなにも優秀なのかと驚きました。「そんな優秀な方がいるんだ、自分とは違うなあ」なんて比較して勝手に落ち込んでいるそこのあなた! あなたのことですよ! 自覚を持ってくださいね! みなさん優秀なのに自覚がないことにも驚いたので、この点はしつこくお伝えしていかなくてはと思いました。
(これだけ優秀な出版翻訳家候補者が読者にいるなら、もしかして優秀な編集者さんも読者にいらっしゃるのでは……そして自分が優秀な編集者だという自覚がないのでは? 企画にご興味をお持ちの編集者さん、ぜひこちらからご連絡くださいね。)
それにしても、私の企画書よりもはるかに優れた企画書を多数お寄せいただき、喜んでいいのか、危機感を覚えるべきなのか……。
「そうか、こんなふうに書けばいいんだ!……いやいや、応募者に教わっていてどうする! あ、でも、松下幸之助が成功したのは、自分よりも優秀な人たちを周りに置いていたからだっていうし、うん。ていうか師匠の立場のはずなのに、こんなに一瞬で追い越されてしまうなんて、私って、私って……」
「……なんて親しみやすいの!!」
と、無理やり自分の長所に変換しつつ、進めます。
今回、感じたことがふたつあります。
まず、原書の存在はやはり大きいということです。これが出版翻訳企画ではなく出版企画だったら、もっと箸にも棒にもかからない企画の応募もあったのではないかと思います。たとえば「俺の話を聞いてくれ!」という自己承認欲求の塊のような自分史とか……「えーと、その本の読者はあなたひとりなのでは?」という企画もあったことでしょう。でも、原書があるとそういうことにはならないんですよね。やはりすでに出版物として価値が認められていることの強みを感じました。
もうひとつは、持ち込むことのハードルの高さです。お寄せいただいた企画書はどれもレベルが高く、準備もきちんとされていました。ここまでできているのに持ち込みをしていないということは、そこにはやはり心理的に大きな壁があるのでしょう。この点については今後も注目しながらフォローしていきたいと思います。
私が今まで本を出し続けられたのは、翻訳家としての実力ではなく、断られてもあきらめない粘り強さ(しつこさとも言います)と、うまくいかなくても気にしない鈍感力のおかげだったんだなあ……と、思いがけず己を知る機会になりました。しばし遠い目でたたずんでしまいましたが、そんな強み(?)を活かして、ご応募いただいた企画のサポートをしていければと思います(実力も身につけよう……)。企画の進捗はこの連載の中でレポートしていきますので、「まだまだこれから!」という方も、それを励みにしていってくださいね。どうぞお楽しみに!
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