第149回 監修のデメリットは?
前回の連載で、企画書をつくるときに監修をつけることのメリットについてお伝えしました。では、デメリットはないのでしょうか?
考えてみたのですが、特に思いつきません。強いて言えば監修料がかかることでしょうが、私はこれをデメリットとは考えていません。
監修料は監修者が遠慮される場合もありますし、支払われる場合も、実質的な作業量によって金額は変わってきます。何パーセント、と決めて翻訳家と印税を分け合う形が多いです。たとえば、印税率が6パーセントだとしたら、監修者が1パーセントなら翻訳家は5パーセントという具合です。
何かが減らされることを人は嫌がるものですので、「6パーセントが5パーセントに減らされるのか」と捉えてしまうかもしれませんが、実際に監修者の方に与えていただくものの価値を考えたら、とても1パーセントどころではないと思うのです。そもそも、その本を出すこともできなかったかもしれないのですから。
監修者への印税も、初版だけの場合もあれば、重版に際しても支払われる場合もあります。契約の時点で編集者さんから意向を尋ねられると思いますが、このときも、目先の利益を考えて初版だけのお支払いにするのではなく、重版の際にもお支払いするようにしておくことをおすすめします。読者からの質問でわからないことがあったときにご相談できるという実質的な理由もありますが、何よりも、人からしていただいたことのありがたみは、時間が経つほどに身にしみてわかってくるからです。後になって「もっとしっかりお礼をしておきたかった」と思うよりは、最初からできる限りのお礼をしておきましょう。
人によっては、「自分だけの名前でデビュー作を出したい」という思いがあるかもしれません。でも、そこにこだわってデビューが何年も後になったり、下手をしたらデビューできずに終わってしまったりするよりも、まずは作品を出すことを考えたほうがいいと思います。心配しなくても、その後に自分だけの名前で翻訳書が出せる機会はたくさんあるはずです。
もしかしたら、「翻訳家としてその後も続けるつもりはないけれど、とにかくこの本を日本に紹介したい。だからベストの形で出したい」という方もいらっしゃるかもしれません。そういう理由で自分だけの名前で出すことにこだわっているのだとしたら、それは誰にとってのベストなのかを考えてほしいと思います。自分にとってのベストではなく、本にとってのベストになっているでしょうか。そうでないなら、違う選択肢も見えてくるでしょう。
人に気を遣うタイプの方だと、「監修者の先生にご負担をおかけするのは申し訳ない」という気持ちがあるかもしれません。でも、人って、人の役に立つことをするのはうれしいものなんですよね。もちろん、スケジュール的なことや作業量などで難しい場合もありますし、ご負担をおかけするのは事実ですから、少しでもご負担を減らせるように自分がしっかり仕事をするのは大前提です。そのうえで、「申し訳ないから頼まない」のではなく、「申し訳ないけれど甘えてみる」という、人からの好意をありがたく受けることを練習するのも大切だと思うのです。申し訳なく思う気持ちがあるなら、それは将来、自分が人を助けてあげられる立場になったときに返していければいいのですから。
次回の連載では、出版翻訳家の三辺律子さんのインタビューをお届けします。今回の内容にも関連して、好きなことを仕事にしていくうえでとても参考になるお話を伺えたので、どうぞお楽しみに!
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