第147回 初校ゲラにどう手を入れる?
初校ゲラが届いても、はじめてだと、どう校正すればいいかわからないものです。そこで、来月発売になる新刊を例に、実際にどんなふうに手を入れているのかをお伝えします。翻訳書ではなく著書ですが、校正作業自体は変わらないので、ご参考になればうれしいです。
入稿前は色々な箇所の手直しをして「木を見て森を見ず」の状態になっているものです。そこで初校ゲラでは、森を見るほうに意識を向けましょう。大切なのは、一読者の視点で読んでみることです。深く関わっている立場を離れて、はじめてその本を読んだつもりで、本として読みごたえのあるものに仕上がっているかを感じてみてください。そのうえで、わかりづらい箇所や気になる表現がないかを探してみましょう。できれば、身近な人に読んでもらうといいかもしれません。「え? そこで引っかかったの?」と驚くような、意外なところが読みづらいと受け取られていることもあるのです。
初校の段階で大幅に修正が入ることもあります。大きくバツをして削ったり、入れ替えのために囲んで矢印をつけたりして、ゲラが真っ赤になります。今回の作品では入稿前にかなり細かいところまで仕上げていたので、ゲラが赤く染まることはありませんでした。
たとえば、「~ということです。」という文章があって、改行の際に行頭に「す。」という文字だけが来てしまったとします。すると見ばえがよくないので、「~ということなのです。」と言葉を足したり、逆に「~です。」と削ったりして、文字数を調整し、きれいに整えます。こういう作業は初校でやることが多いのですが、これもすでに入稿前に終えていました。
では、そのうえでどんな修正があったかというと、まずは表記の統一です。「とき」を使うか、それとも「時」にするか、といった問題ですね。統一漏れがあったので、そこを修正しています。
出版社によってある程度決まっている場合もありますし、絵本や児童書など、「小学何年生で習う漢字までを使う」というように年齢によって決まる場合もありますが、「作品全体を通して表記が統一されていればいい」というスタンスが多いかと思います。私も他の作品では「時」を使っているのですが、今回の作品はやわらかい雰囲気にするため、字面もそれに合わせて「とき」を選んでいます。
文章を削除した後などに句点が残ってしまうことがあります。こちらもそういう例ですね。削除したい場合には「トル」とカタカナで書き入れます。
続いてルビの追加。今回の作品では、初出の場合だけルビを入れ、その後は入れないことにしたのですが、初出の箇所とページが離れているうえ、難しい呼び名なので、「これでは読者が読めないのでは?」と思って追加しました。
翻訳書であれば、「トム・クーパーさん」という司会者がいたとして、「トムは」「クーパーは」「司会者は」と、一見別人に思える形で登場する場合の調整に近いでしょう。読者が混乱しないように、「トムは」と統一したり、「司会者のトムは」と説明したりして処理します。
こんな具合に、細かい調整を初校ゲラでしているのです。こうやって書き込んだものを編集者さんにお送りするのですが、今回は修正箇所も少なかったため、メールでお伝えするだけですみました。この修正を反映した再校ゲラが出て、またそれを校正する、という流れになります。
校正の際は「ああでもない、こうでもない」と頭を悩ませることも多いのですが、着々と形になっていくのが実感できるので、喜びも大きいものです。
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