TRANSLATION

第140回 2冊目が出せる人、出せない人

寺田 真理子

あなたを出版翻訳家にする7つの魔法

出版翻訳家デビューした後、2冊目の本が出せる人と出せない人がいます。そこには、どんな違いがあるのでしょうか。

まずはデビューすることしか考えられないかもしれませんが、せっかくなら、その後も出版を続けていきたいものです。転ばぬ先の杖として、2冊目の本が出せない要因を検討しながら、どうすればそういう事態に陥らずにすむのかを考えてみましょう。出せない要因には、次のようなものがあります。

・ 1冊目の本を出してモチベーションを失ってしまった
自己承認欲求が出版の原動力になっている場合、1冊目を出版できたことで欲求が満たされ、2冊目へのモチベーションを失ってしまいます。出せなくなったというよりも、もう出さなくてよくなってしまったのですね。自己承認欲求が「出版翻訳家になりたい」という気持ちのどのくらいの部分を占めているかによってこのパターンに陥るかどうかがわかりますので、自分がどうして出版翻訳をやりたいのかをもう一度振り返ってみるといいでしょう。

・現実と理想のギャップにやる気をなくしてしまった
実際にやってみて、思い描いていたのと違ったということもあるでしょう。思っていたよりも相当に大変な仕事だったとか、楽しさを感じられなかったとか。また、翻訳がやりたいのに、翻訳以外のことも多く手がけなければならないことにストレスを感じてしまったかもしれません。仕事である以上、ただ単に翻訳だけしていればいいというわけにはいかず、編集者さんとのやり取りを含め、細々とした事柄への対応が必要になります。どういう仕事なのかをよく理解しておくことでこのパターンに陥るのを防げますので、この連載でお届けしているインタビューシリーズをご参考にしていただけたらと思います。

・ 1冊目の本の評判がよくなかった
業界関係者の評価が低かった場合や、売れ行きが芳しくなかった場合、なかなか2冊目の声がかからないものです。逆に評価が高ければ「この翻訳家に依頼してみたい」という編集者さんが出てきますし、業界内での評価がそれほどではなくても、よく売れた本であれば認知につながります。文芸寄りの本の場合は業界内の評価によって、ビジネス寄りの本の場合は売れ行きによって、翻訳家として名前が認知されることが次の仕事につながりやすいです。だから評価を得られるように、まずは質の高い仕事をすること。そして売れ行きはどうなるかわからないものではありますが、できるかぎりの貢献をしていきましょう。具体的な行動については第75回の「出版翻訳家と営業」をご参考にしてくださいね。

・仕事相手としての評価を得られなかった
納期に遅れてしまった、誠実な対応をしなかったなどの理由で「もう頼みたくない翻訳家」と思われてしまった場合があります。そうならないように、自分の一つひとつの対応を「仕事相手としてどうかな?」と、相手目線で考えるようにしましょう。使い勝手がいいだけの人はただの便利な人に終わってしまう懸念もありますが、新人のうちは使い勝手のよさが次の仕事につながります。また、翻訳のクオリティ自体は高かったけれども、こだわりが強すぎて使いづらい「めんどくさい翻訳家」だと思われてしまった場合もあります。たとえばページの都合でどこかをカットしなければいけないときに、せっかく翻訳したものを削ること自体に抵抗を覚えるでしょう。だけどそういうときに翻訳家としての立場からだけ物を見て主張するのではなく、最終的に本の形になるときに何がベストなのか全体を俯瞰して提案できるように心がけましょう。

・ブランクができてしまった
1冊目を出した後に結婚や出産、転勤や介護など環境の変化があって、次の仕事ができずにかなりの時間が経ってしまうこともあります。そうなると最初の仕事でご一緒した方々やそこでできた人間関係を活かせず、次の仕事につながらなくなってしまいます。その場合、また一からやり直さないといけないのですが、すでに1冊出版しているということは、実績があるということです。その実績を存分にアピールすることも大事にしてください。詳細は第115回の「『実績』の正体」をご参考にしてくださいね。

せっかくデビューできたのなら、それを2冊目につなげていくことができるように。ご参考になればうれしいです。

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Written by

記事を書いた人

寺田 真理子

日本読書療法学会会長
パーソンセンタードケア研究会講師
日本メンタルヘルス協会公認心理カウンセラー

長崎県出身。幼少時より南米諸国に滞在。東京大学法学部卒業。
多数の外資系企業での通訳を経て、現在は講演、執筆、翻訳活動。
出版翻訳家として認知症ケアの分野を中心に英語の専門書を多数出版するほか、スペイン語では絵本と小説も手がけている。日本読書療法学会を設立し、国際的に活動中。
ブログ:https://ameblo.jp/teradamariko/


『認知症の介護のために知っておきたい大切なこと~パーソンセンタードケア入門』(Bricolage)
『介護職のための実践!パーソンセンタードケア~認知症ケアの参考書』(筒井書房)
『リーダーのためのパーソンセンタードケア~認知症介護のチームづくり』(CLC)
『私の声が聞こえますか』(雲母書房)
『パーソンセンタードケアで考える認知症ケアの倫理』(クリエイツかもがわ)
『認知症を乗り越えて生きる』(クリエイツかもがわ)
『なにか、わたしにできることは?』(西村書店)
『虹色のコーラス』(西村書店)
『ありがとう 愛を!』(中央法規出版)

『うつの世界にさよならする100冊の本』(SBクリエイティブ)
『日日是幸日』(CLC)
『パーソンセンタードケア講座』(CLC)

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