TRANSLATION

第137回 取材をされて気づくこと②

寺田 真理子

あなたを出版翻訳家にする7つの魔法

取材をされて気づいたもうひとつのことは、「自分で勝手にハードルを上げてしまっている」ということです。

この連載では、出版翻訳家の方々のインタビューをお届けしています。ぜひお話を伺ってみたいと思う方にお願いしているのですが、その際に、「これくらいの準備をしないと依頼をしてはいけないのでは?」と勝手に高いハードルを設定してしまっていることに気がついたのです。

たとえば、多数の著作のある方の場合、全作読破するのはさすがに無理だとしても、せめて十数冊は拝読しておかなくてはと思ってしまいます。そのうえで、何をお尋ねすればその方の持つ情報や魅力の中で、読者の参考になることを引き出せるのかを考えて質問をまとめます。そうすると、準備に数十時間かかることもよくあります。ある程度準備をしてから依頼をするため、インタビューをさせていただきたいと思ってから、実際に依頼ができるまでに半年ほどかかってしまうことも……。

もちろん、準備をした分だけ相手の方への理解も深まりますし、お話を伺える喜びも増すので、実りは大きくなります。その意味ではこれからもできるだけ準備をして臨むことに変わりはないのですが、「これだけのことをしなければ依頼してはいけない」という、いつの間にか勝手に上げてしまったハードルは、もう少し下げるなり脇に置いておくなりしてもいいのではと思ったのです。

実際、自分が取材をしていただく立場になって考えると、「取材をするなら私の全作品に目を通してくれないと」なんて思いませんし、取材者の方々も、みなさん丁寧にご準備をしてきてくださいますが、私のように「これをしておかねば!」という変な気合いは見受けられません。

私の準備の背後にあるのは、自分に対する自信のなさなのだと思います。今のままでは十分だと思えないから、「もっとこれも読んで、あれも読んで、勉強しなくちゃ」と自分を駆り立ててしまうのでしょうね。それが向学心につながってもいるので、悪いことばかりではないのでしょうが、一歩引いて自分を見たときに、「そこまでしなくても大丈夫じゃない?」という気がします。

出版翻訳家を目指す方にも、こういうケースは多いように感じます。すでにデビューするのに十分な実力を備えているのに、「自分はまだまだ」と思って勉強を続けていて、先が見えなくなってしまっているのです。そういう方は、もっと視野を広くしたうえで自分の実力を捉えてみてもいいかもしれません。翻訳学校でプロを目指すコースに通っていて、優秀な生徒さんたちにいつもに囲まれていると、自分の実力を過小評価してしまいがちです。客観的に見れば、そのコースに在籍しているだけで相当に優秀なはずですし、仕事にも対応できる力を備えているはずです。

「自分はまだまだ」という気持ちを長年持ち続けることも大切なのですが、その気持ちが自信を喪失させてしまっていたり、前に進むのを阻んでしまっていたりすることに気づいたら、自分の実力をぜひ客観的に捉え直してあげてくださいね。

さて、自分で勝手にハードルを上げて(笑)準備をしてきた、渾身のインタビューシリーズ。次回の連載でお届けいたします。どうぞお楽しみに!

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Written by

記事を書いた人

寺田 真理子

日本読書療法学会会長
パーソンセンタードケア研究会講師
日本メンタルヘルス協会公認心理カウンセラー

長崎県出身。幼少時より南米諸国に滞在。東京大学法学部卒業。
多数の外資系企業での通訳を経て、現在は講演、執筆、翻訳活動。
出版翻訳家として認知症ケアの分野を中心に英語の専門書を多数出版するほか、スペイン語では絵本と小説も手がけている。日本読書療法学会を設立し、国際的に活動中。
ブログ:https://ameblo.jp/teradamariko/


『認知症の介護のために知っておきたい大切なこと~パーソンセンタードケア入門』(Bricolage)
『介護職のための実践!パーソンセンタードケア~認知症ケアの参考書』(筒井書房)
『リーダーのためのパーソンセンタードケア~認知症介護のチームづくり』(CLC)
『私の声が聞こえますか』(雲母書房)
『パーソンセンタードケアで考える認知症ケアの倫理』(クリエイツかもがわ)
『認知症を乗り越えて生きる』(クリエイツかもがわ)
『なにか、わたしにできることは?』(西村書店)
『虹色のコーラス』(西村書店)
『ありがとう 愛を!』(中央法規出版)

『うつの世界にさよならする100冊の本』(SBクリエイティブ)
『日日是幸日』(CLC)
『パーソンセンタードケア講座』(CLC)

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