第136回 取材をされて気づくこと①
拙著のことで各種メディアの取材を受ける機会が続いていました。インタビュー形式で先方の質問にお答えするのですが、そこであらためて気づいたことがあります。それは、「自分にとっての当たり前は、人にとっては当たり前ではない」ということです。
私の例でいえば、本を読みながら「この本はこういう問題で困っている人に役立つだろうな」とか「こういうテーマが出てくるから、関連することで悩んでいた○○さんの参考になるかもしれない」という具合に、誰かの役に立つのではないかと考えています。
「え? いつもそんなことを考えて読んでいるんですか?」と驚かれて、「あれ? みんなそんなふうに考えて読んでいるんじゃなかったの?」と逆に驚いた次第です。自分にとってはごくごく当たり前のことなので、まわりもそんなものだろうと思い込んでしまうのですね。いろいろな分野の専門家のインタビューなどを読んだときに、対象へののめり込み方や、それゆえに世間とずれているところや、そのことへの自覚のなさがおもしろくて、「マニアだなあ」と笑ってしまうことがよくあるのですが、自分もそうだったという……。
これは、出版翻訳家を目指す方にもあてはまることかと思います。まず、出版翻訳家を目指している時点で、自覚はないでしょうが、十分マニアです(笑)。普通は英語が好きでも翻訳をしようとまでは思わないし、本が好きでも出版しようとまでは思わないんですよね。そう考えると、出版翻訳家って、相当なマニアですね……。
そこからさらに一歩進めて、「何についてのマニアなのか」をもっと深掘りしてみることで、出版翻訳の夢が現実味を帯びてきます。たとえば料理なのか、音楽なのか、片づけなのか、はたまた進化論なのか神学なのか……。
片づけひとつとっても、片づけという行為が好きな方もいれば、インテリアに興味がある方、すっきりした空間で暮らしたいというシンプルライフや禅的生活に関心がある方、生活しやすい動線を確保するなどの効率化やロジカル家事に興味がある方、片づけることによる精神的な効果を実感していてメンタルヘルスの観点から関心がある方などなど、その興味のあり方は様々です。
効率化に関心があって片づけの本を翻訳したいと思っているのに、片づけ関連だからといってインテリアの本を頼まれたとしたら、「なんだか違うな」と感じるはずです。自分が本当に関心があるのはどこなのか見極めができていなくて、「片づけ」と大きく括ってしまうと、こういうミスマッチが生じます。この方の場合であれば、インテリアよりもむしろ経営の本などのほうがうまく関心と重なるでしょう。
ただ、自分のことというのは自分では見えにくいものです。自分にとっては当たり前すぎてわからないのですね。だから、まわりの方に訊いてみることをおすすめします。「私のこだわりが強いのってどんなところ?」「私を見ていてマニアだなあって思うときがある?」という具合に。訊きづらかったら、単に好きなものについて友人と話してみるのでも構いません。「片づけが好きで」と話しているうちに、友人はどんな家具を置くかとかどんな色で部屋を統一するかを話しているのに、どんな動線を確保するのが理想かを熱く語っている自分に、「あれ? もしかして私って効率化マニア……?」と気づくかもしれませんよ。
もうひとつ、取材をされて「そうだったのか!」と気づいたことがありました。それはまた次回にお伝えしますね!
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