第128回 縁は結ぶもの
出版翻訳家兼ジャーナリストの牧野洋さんのインタビュー、編集者の藤田浩芳さんのインタビューを続けてお届けしてきました。そこで思い出したのが、「縁は結ぶもの」という言葉です。
「袖振り合うも多生の縁というように、いろんなご縁があるでしょう? だけどそのままでは、すぐにお互いに忘れてしまうもの。だから縁は結ぶようにしているんですよ」
この言葉を教えてくれた方は、そう言って実際にまめにご縁をつないでいました。たとえば、何かの機会にご一緒した方には、その後すぐに葉書を書くなどして、「そのときだけ」で終わらせてしまわないように工夫をされていました。そうすることで、多くの知人に恵まれていらっしゃいます。
「伝手がない」という理由で先に進めなくなってしまう方も、きっとこれまでの人生のどこかで、すでにご縁があるはずなのだと思います。ただ、それに気づけていなかったり、結べていなかったりするだけなのではないでしょうか。
拙訳書『虹色のコーラス』の中で、私の気に入っているエピソードがあります。子どもたちのコーラス隊が、練習を見てくれる指揮者を探そうとします。だけど大人の知り合いがいないので、どうしようかと思案するのです。そこで、こんな話し合いがされます。
「お前のお父さんは警官だろ、ホアノット」とモハメッドが言った。
「ああ、何か手伝ってもらえるかもしれない、でもどうかな」ホアノットは疑わしそうだ。
「僕のお父さんは何もできないと思う」と少し恥ずかしそうにアブドウが言う。
「うちのお父さんはパン屋さんよ」とミレイア。
「ああ、だけどバゲットを焼いてるんじゃ、たいした知り合いはいないだろ」とモハメットがバカにした。
ミレイアは少しがっかりして視線を落としたが、すぐに言い返した。
「でも、この地区にはパンを買いに来る人がたくさんいるわ。その中に、リセウ大劇場で働いている人がいるかもしれない」
そして実際、リセウ大劇場の歌の先生がパン屋さんのお客さんにいたのです。そして、子どもたちのコーラス隊の指揮をしてくれることになりました。
「それはお話だから」と思うかもしれませんが、現実の世界でも、思わぬところにご縁があるものなのです。頭で探そうとすると、どうしても「出版関係者につながる業界のところ」などと限定してしまいますが、そうやって探すのではなく、直感でなんとなく気になるところや気になった人などにアプローチするほうが近道です。
実際、インタビューをさせていただいたおかげで気づいたのですが、牧野洋さんは、私が楽しみに読んでいた連載記事を書いた方でした。そのうえ藤田浩芳さんも、実はすでに注目していた方だったのです。インタビュー後の週末に昔の資料を整理していたところ、拙訳書の販促の参考にしようと保存していた数年前の新聞記事が出てきました。そこでコメントをしていたのが、なんと藤田さんだったのです。すでにご縁があったのですね。
インタビューのきっかけも、直感を大事にしたことでした。普段はジャーナリスティックな本はあまり読まないので、「このジャンルは私には関係がなさそうだから」と頭で選んでいたら、ご縁がつながっていくことにはならなかったと思います。
「伝手がない」と立ち止まってしまわず、直感を大事に、見つけていってくださいね。そして、企画をご検討いただける今回の機会は、ぜひ活かしていただけたらと思います。
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