第122回 どんな本をどれくらい読めばいいの?
今回の連載では、こちらのご質問にお答えします。
「出版翻訳家になるためには、どんな本をどれくらい読めばいいのでしょうか?」
これは、あなたがどのような出版翻訳家を目指しているかにもよりますので、一概にお答えはできません。ただ、手がけたいジャンルに通じていると自負できるまで読み込むことをおすすめします。ミステリならばミステリ、絵本ならば絵本、SFならばSFを大量に読み込むことです。
第97回の大森望さんのインタビューでも、「ある特定のせまい分野でいいから、それについては編集者以上の知識を持つこと」というアドバイスがありました。また、第36回の笹根由恵さんのインタビューでも、「このジャンルの本なら誰よりも読んでいるほどでした」といえるくらいに読み込んだことが挙げられていました。そのくらい読み込んでおけば、翻訳もこなれてくるでしょうし、あなたが持ち込む企画にも説得力が出てくるでしょう。
それが具体的に何冊なのかは、人によって差があります。勘がいい方や、もともと大量に読んできている方であれば、十冊くらい読んだだけでも、そのジャンルの全体像がつかめるかもしれません。けれども普通は何十冊、何百冊という積み重ねが必要になります。
また、出版翻訳家としてデビューした後も、読み続けなければいけないことに変わりはありません。出版翻訳家によってもやはり読むものは違い、「翻訳物を読むと原文がどうなっているのか気になるから」といって翻訳物は一切読まない方もいます。その代わり、日本語表現を磨くために日本の小説を大量に読むそうです。また、別の方は、自分の読書量は少ないほうだと前置きをされたうえで、毎月読むのは十冊程度だとお話しされ、最近読んだ本として英語圏以外の翻訳物を挙げていらっしゃいました。
では、私の場合は具体的にどうかというと、たとえば連休中にはこんな本を読んでいました。
『パリのすてきなおじさん』
『はこ』
『そらいろのたね』
『渡辺省亭~花鳥画の孤高なる輝き』
『キリンの一撃』
『三つ編み』
『ダリウスは今日も生きづらい』
『百人一首という感情』
そして連休明けに読んだ本、いま読んでいる本は次の通りです。
『血も涙もある』
『万葉の花~江戸の植物画と現代活け花による』
『福岡はすごい』
『官報複合体』
『新型コロナとワクチン 知らないと不都合な真実』
『ブランケットになったやぎ』
『くうきにんげん』
『トラブルメーカーズ』
『こころと身体の心理学』
私の場合は出版翻訳の観点からだけでなく、読書療法の観点から読むことが多いのですが、ひとつの事例としてご参考になればうれしいです。
「あれ? 原書は読まないの?」
そう疑問に思われるかもしれません。これも出版翻訳家によってかなり差があるところだと思います。日本語でのアウトプットを重視して日本語の本を多く読む方もいれば、原書選びの目利きとして原書を多く読む方もいます。私の場合は、日本語で読むことのほうが多いです。
通訳出身のせいか、英語はむしろ耳から入るほうがハードルが低いのかもしれません。ただ、読まない分、Anderson Cooper 360°、abc World News Tonight with David Muir、Cuomo Prime Timeは毎日Podcastでチェックしているほか、60 Minutesも毎週チェックしています。60 Minutesで取り上げる話題は興味深いものが多いので、扱われた題材を調べていくと、面白そうな原書が見つかることもありますよ (読もうと思って積読しているうちに翻訳書が出てしまったりしますが……)。社会派のテーマにご関心がある方には、情報源としておすすめします。
他にもご質問のある方は、こちら(私が主宰している日本読書療法学会のお問い合わせ欄になります)からお寄せください。連載の中で順番にお答えしていきます。
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