第121回 夢をあきらめそうなときは?~後編
「そもそも論」に立ち返って考えてみても、やっぱり出版翻訳家になりたいと思ったら、あきらめないための具体的な工夫をしていきましょう。
①ひとまず離れて休む
あなたは長年勉強を続けてきて、いっぱいいっぱいになっているのかもしれません。もう詰め込む余力がないのに無理に詰め込もうとしているようなものです。まずは、詰め込むためのスペースをつくりましょう。そのためには、いったん勉強から離れてみることです。つい不安になって手を伸ばしそうになっても、あえてそのままにしてみます。そうやってしばらく離れることで余裕ができて、「もう嫌だ」と思っていたのが、「早くまた勉強したい」という気持ちが湧いてくるものです。
どのくらいの期間が必要になるかは、人によって差があるでしょう。2、3日ですむ方もいれば、1か月か、それ以上の場合もあるかもしれません。あまり長引くと心配になるかもしれませんが、70代、80代の出版翻訳家が活躍されているように、出版翻訳自体は高齢になってもできる仕事です。だからそこを心配するよりも、自分自身のエネルギーを取り戻すことを考えましょう。
②きっかけになった作品を再読する
あなたが出版翻訳家を目指すきっかけになった作品がきっとあるはずです。「○○さんが翻訳したこの小説を読んで文章表現の素晴らしさに感激して、翻訳の世界に憧れた」「子どもの頃に読んだ翻訳絵本で海外の生活を知って翻訳に興味を持った」という具合に。その作品をあらためて読んでみることで、当時の感動を思い起こし、気持ちを新たにできるかもしれません。
③優れた作品に刺激を受ける
優れた出版翻訳の作品をたくさん読みましょう。憧れるきっかけをくれた○○さんがいまも現役でご活躍なら、その最新作を読むのもいいでしょう。話題になっている作品や、気になっていた作品を読むのもいいでしょう。「やっぱり出版翻訳っていいなあ」と、出版翻訳家へのモチベーションを高めてくれるはずです。
④下手な作品を読んで自信を持つ
③の方法で注意したいことのひとつが、読んだ作品が素晴らしすぎて自信をなくしてしまうことです。「こんなすごい方がお仕事をされるのだから、自分なんて到底無理!」と思ってしまうのです。そういうときは、下手な作品を読むといいでしょう。「これでプロなの? だったら自分だってプロになれるはず。いや、なれなきゃおかしい!」と自信が湧いてくるはずです。ただし、この目的で私の作品を読むのは勘弁してくださいね……(笑)
⑤これまでやってきたことを見返す
これまでにやった翻訳を見てみましょう。「なかなかよくできてるかも」「がんばって取り組んだんだなあ」と思えるのではないでしょうか。過去の自分のがんばりに、いまの自分が励まされることはあるものです。また、勉強に使ったテキストやノート、読んだ作品などを並べて、具体的に「見える化」してみるのもいいでしょう。「これだけやってきたんだ」ということが見えると、それも自信につながります。
⑥「いま始めたばかり」の気分になる
これまで何年勉強を続けていようと関係なく、「いま始めたばかり」だと思ってみましょう。いまの時点でそのくらい翻訳ができれば……かなりの実力派です! そう思うと、がんばれる気がしてきませんか?
自分で自分のモチベーションを維持するのも大切なことです。あなた自身の性格を見極めながら、どんな方法が効果があるのか、試してみてくださいね。
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