第118回 読みたくなる目次のつくり方③
もうすぐ拙著『心と体がラクになる読書セラピー』が発売になります。今回は本書を例に、第114回に引き続き、読みたくなる目次のつくり方について考えていきましょう。私の文章に編集者さんがどのように手を加えてくださったかがわかるので、ビジネス書の「ジャンルの文体」を学ぶご参考にもなると思います。
たとえば、第3章のタイトルはこうなっています。
「読書セラピーお国事情」
私の原稿では、実はこんなタイトルだったんです。
「各国における読書療法の適用事例」
かなりお堅い雰囲気ですよね。原稿を書き進める間、ずっと「読書療法」という言葉を使っていたのですが、「療法という言葉の持つ堅苦しいイメージが読者を遠ざけてしまうのでは?」と指摘がありました。そこで思い切って「読書セラピー」という言葉を採用しました。
メインで使う言葉を変えるのは、読者層の判断とも関わってきます。「療法」に反応する読者はある程度専門性を求めていたり、読者自身の専門性が高いと考えられます。「セラピー」だとより手軽な感じになるため、とっつきやすい反面、お手軽なものを求めている読者だと、想定した内容とずれが生じる可能性もあります。
今回は難しそうなイメージを払拭して読者層を広げるために「セラピー」を使いました。それでもまだ「各国における適用事例」だと、どうしても学術書っぽくなりますよね。そこで編集者さんが思いついたのが「お国事情」という言葉です。これでぐっと身近な感じになりました。
この章の中の小見出しも、読みたくなるように仕上げていただきました。
「イスラエルにおける適用事例」
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「憧れの職業・読書セラピストは国家資格―イスラエル」
本文中の目を引く部分をうまく盛り込んでいただきました。「原書の目次はそっけないから、内容のサマリーを入れ込んで、読者の気持ちに沿ってつくっていくこと」の大切さを訴えておきながら、自分の原稿はそっけないという……(苦笑)
さらに、選書術についてお伝えする箇所の小見出しも、こう変わりました。
「字面選書術」
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「川端、三島、どっちが好き?―字面選書術」
川端康成と三島由紀夫を引き合いに出して本の選び方を説いた内容なのですが、具体的な作家名を出すことでだいぶキャッチーになりますよね。
手を入れていただいた目次を見ながら、「餅は餅屋」という言葉が浮かびました。ジャンルの文体が身についているからこそ、出てくる表現なのでしょう。
こうして見てくると、目次の翻訳というのは、編集者さんの仕事に近いかもしれませんね。原書を深く読み込んで理解したうえで、どうやったらそのよさが読者に伝わるかを考え、許容範囲を探りながら、適度に味つけしていく。距離感が必要なので、著書だと客観的になれないから難しくて、翻訳書のほうが手を入れやすいのでしょうね(と、自分のそっけない原稿への言い訳をしつつ……)。
原書をそのままでは出版できないことも多いですし、内容をカットしたり要約したりする場面もあることを考えると、目次の翻訳を通して編集能力を磨いておくことも、きっと役立ってくれると思いますよ。
※今回、題材として取り上げた『心と体がラクになる読書セラピー』は4月23日発売です。翻訳したい原書を選ぶためのご参考や、日々の読書にお役立ていただけたらうれしいです。本好きが心惹かれるたたずまいに仕上がっていますので、ぜひお手に取ってみてくださいね。
※この連載を書籍化した『翻訳家になるための7つのステップ 知っておきたい「翻訳以外」のこと』が発売中です。どうぞよろしくお願いいたします。