第113回 読みたくなる目次のつくり方①
本を手に取ったとき、目次を見る方は多いでしょう。ざっと目を通して、おもしろそうな項目があると、読んでみたくなるものです。試訳の段階でも、読みたくなる目次がつくれると編集者さんの反応も変わってきます。
だけど原書の目次は、はっきり言ってそっけないのです。そのまま訳しても、「読みたい!」とはなりません。そこで内容のサマリーを入れ込んで、読者の気持ちに沿ってつくっていくことが求められます。拙訳書『認知症の介護のために知っておきたい大切なこと』の目次を例に見ていきましょう。
第1章のタイトルは次のようになっています。
「認知症」にとらわれずに「その人」を理解することから始めよう
実は、原書のタイトルはこれだけなんです。
Let’s focus on the whole person
「その人全体に焦点をあてよう」などとそのまま訳しても、漠然としていて、なんだかよくわかりません。そこで内容を読み込んでみると、認知症の場合に「認知症」にばかり焦点が当たってしまって、「その人がどういう人なのか」という肝心のことに目を向けなくなってしまうのを問題視しているのだとわかります。そこで言葉を補って上記のように訳しているのです。
では、第2章のタイトルはどうでしょうか。
Each person is special
「一人ひとりが特別な存在」と訳してしまうと、抽象的なままになってしまいます。ここも内容を読み込むと、「認知症」のせいで、たとえば10人いたら10人それぞれが別個の人間なのに、同じ「認知症」の人としてひとくくりにしていることに問題提起をしているのだとわかります。そこでこのように訳しました。
ひとくくりにしないで! 一人ひとりがかけがえのない存在です
続いて、第7章。
Looking at some problems
「問題点の検討」では会議書類のようになってしまいます。ここで扱われているのは、読者である介護者にとって悩ましい状況です。具体的にどういうことなのかを盛り込んだうえで、読者としては対応方法を知りたいわけですから、このように訳しています。
「徘徊」や失禁、攻撃……認知症の「困った!」にどう対応すればいいの?
(なお、「徘徊」という表現自体への問題提起もあり、括弧をつけています。詳しく知りたい方はこちらの記事をご参照ください。)
最後に、第13章。
What about ourselves?
「私たちはどうするの?」ということですが、ここでいう私たちとは、読者である介護者のことです。介護者自身のセルフケアの大切さを謳った章です。だけど介護者の中には自分をいたわることに罪悪感を持ってしまう方も多いので、セルフケアが介護のためにも大切なのだと伝え、心の負担を軽くしようと「よいケアをしていくために」という言葉を入れました。
よいケアをしていくために、介護者は自分のことにも目を向けよう
目次だけでも内容がつかめるように工夫していくこと、読者の視点に立つことが大切だと、おわかりいただけたでしょうか。次回も引き続き、読みたくなる目次のつくり方について考えていきましょう。
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