第111回 企画が通った理由
先日、著書の持ち込み企画が通りました。著書と翻訳書の違いはあれど、企画が通るポイントは共通するはず! というわけで、どうして企画が通ったのかを担当編集者さんにお伺いしました。
まずは、サンプル原稿があったこと。今回の企画では、類書を検討して著者としての立ち位置をまず考えました。さらに、ひとつの話が何ページで、こういう構成で、という細部まで詰めたうえで、それに沿って原稿を用意しました。実際にこんな本ができると目に見えるようにしたのです。企画書だけで概要しかない状態で社会の企画会議にかけても、他の編集者さんたちも「いいんじゃない?」「面白そうだね」くらいしかフィードバックができません。だけど実物があると、文章のトーンなども伝わりますし、出来上がりのイメージを社内で共有してもらえます。「ここの構成は変えたほうがわかりやすいのでは?」など、具体的なアドバイスも得られます。
これは翻訳書の場合に置き換えるなら、試訳をつけることに相当するでしょう。「こういう本を翻訳したいんです」と企画書で伝えるだけではなく、「日本で出版する時にはこんな本になりますよ」と実際に訳文で見せるのです。試訳があることで翻訳力を示して安心してもらえるだけではなく、実物のイメージを「見える化」することができるのです。
次のポイントは、「知っているようで詳しく知らないことを、抵抗なく知ることができる」。今回の著書は古典についての本なのですが、古典って、何となく漠然と知った気になっているけれど、実はよく知らないものですよね。大人として、教養としていつか身につけておかないといけないと思っているものの、なんだかハードルが高い……そう感じている読者に、新しい切り口から、すっと入れるようになっています。
これも翻訳に置き換えるなら、原書探しの段階で、「ありそうでない」切り口を見つけることになると思います。誰もが知りたいことをこれまでにない形でわかりやすく解説した本や、誰もが一度は読まなきゃと思っている名作を新しい解釈で紹介した本などもそうでしょう。潜在的なニーズがあるところに、どうやってそこに響くように届けるかを探ることだと思います。
続いてのポイントは、編集者さんの興味と重なっていたこと。これは第52回の作家インタビュー~植西聰さん 前編などでもお伝えしてきたことですが、やはり企画が通るうえで外せません。また、今回はちょうど企画会議の際に想定読者に近い年齢層の編集者さんたちがいらしたので、実際の読者に近い反応を得られたこともよかったようです。
翻訳書の場合でいえば、たとえまだ編集者さんと面識がなくても、手がけた作品を見ていくことで、自分の企画が興味を持ってもらえそうかがわかるはずです。奥付やあとがきの情報から、どんな編集者さんが担当しているのかチェックしてみましょう。
ちなみに、私の既存の本の販売実績も関係があったかどうかお尋ねしたところ、今回の本は書店で置かれる棚が違う、つまりジャンルが違うので、特に関係なかったそうです。もし同じジャンルであれば、たとえば既存の本が重版になったところで企画を持ち込むなど、プラスになるタイミングがあります。だけどジャンルが違うと、特にそういうことはないのですね。
以上、通りたてほやほやの企画の通過ポイント、お役立ていただけたらうれしいです。
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