第108回 デビューのきっかけに?新潮講座業務責任者インタビュー~上田恭弘さん
出版翻訳家のデビューのきっかけには持ち込みからオーディションまでさまざまなパターンがありますが、下訳を手がけることもそのひとつです。今回、「希望者は下訳者として参加できる」という講座を新潮講座に見つけ、業務責任者の上田恭弘さんにお話を伺いました。
寺田:本日はよろしくお願いします。新潮講座には「出版翻訳に挑戦!」という講座がありますが、これは出版翻訳家を養成する目的で始められたものなのでしょうか。
上田(以下敬称略):この講座は翻訳家を養成するものではなく、あくまでも市民講座という位置づけです。本格的に翻訳家を目指す方は翻訳学校などに別途通われるでしょうから、この講座ではむしろ、翻訳物を読む楽しみを広げることや、深く読めるようになることを主眼としています。
寺田:そうなのですね。では、ここに通ったからといって新潮社の翻訳ができるとか、そういう形でお仕事に直結するものではないのですね。
上田:そういう目的の講座ではありません。
寺田:講座案内によれば、希望者は出版予定の書籍の翻訳に下訳者として参加できるそうですね。下訳というと、翻訳学校に長年通って先生に実力を認められてからようやく頼まれる、あるいはオーディションで合格して手がけることができるケースが大半かと思います。ところがこの講座では希望者は参加可能とのことで、驚きました。力量は問われないのでしょうか。
上田:希望者には下訳をしていただきますが、機械的に割り振るわけではなく、講師の先生が個別の状況を見て対応します。
寺田:それなら力のある方にはある程度の分量をお願いして、まだ難しい方には少量で、という具合にできるわけですね。実際にすでに下訳希望者がいらっしゃるのですか。
上田:はい。何名かすでに希望されている方がいて、講師の先生と個別にやりとりをしていただいています。
寺田:下訳をするのはどのような内容の本なのか、ご教示ください。
上田:講師に確認しましたが、ある程度仕上がるまで伏せておきたいので、まだ公表できません、とのことです。楽しみにお待ちいただければと思います。今後もノンフィクションを中心に継続的にやっていくそうです。
寺田:こういう講座を受講することのメリットのひとつは、講師の先生と直接お会いできることだと思います。実力があって、「この原書を自分が翻訳したい」という企画もあるのだけれど、伝手がない方も多くいらっしゃいます。そういう方の場合には伝手ができることで出版の可能性が拓けます。だけどこの講座はオンライン講座なので、講師の先生とお会いすることはできないんですよね?
上田:そうですね。リアル講座のように雑談をする時間はないので、そういう形で親交を深めることはできませんが、下訳を希望する方に講師の先生と直接やりとりをしていただくことは可能です。最初は事務局が仲介しますが、その後は個別のやりとりになります。講師の先生から他の出版社を紹介してもらうことも考えられるでしょう。
寺田:この講座は3月までとなっていますが、4月以降も継続していくのでしょうか。
上田:はい。講座自体は継続しますが、すでにある程度下訳希望者が集まっていることもあり、4月からはしばらく下訳の募集はなくなります。とはいえ、翻訳はこれからも行っていきますので、今後の受講者にもタイミングをみて下訳に入ってもらうつもりでいます。多少お待たせするかもしれませんが。
寺田:そう考えると、下訳をやりたいと考えている方や実績をつくりたいと考えている方にとっては3月までがチャンスということになりますね。読者の中でデビューのきっかけを探している方には、ぜひご参考にしていただけたらと思います。本日はありがとうございました。
このような形で下訳者を募集していることは珍しいと思い、インタビューをさせていただきました。お忙しいところ応じてくださった上田さん、ありがとうございました! 学校に通っていないので下訳のチャンスがない、あるいは長年通っているけれどまだ声をかけてもらえない、オーディションになかなか通らないという方もいらっしゃるかと思います。そんな方が実績を積む機会のひとつとして、お役立ていただけたらうれしいです。なお、今回ご紹介した講座に関するお問い合わせやお申込は、新潮講座のほうにお願いいたします。
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