第99回 出版社が倒産したら?②
増刷分の印税をもらわないまま、出版社が倒産してしまいました。
他にも多額の債権者が多くいたので、それに比べれば被害は軽かったとはいえ、やはりショックは大きいものです。金銭的なこともありますが、何より、精魂込めた作品が出版できなくなってしまうのですから……。
そのショックを共有できる相手が少ないのもつらいところです。作品は自分にとっては子どものようなものなので、いきなり我が子がひどい犯罪に巻き込まれたような精神的負担があります。現実の子どもがそういう事態になれば心を寄せてくださる方も多いでしょうが、作品に関しては、理解してくださる方は限られてしまいます。
倒産後には色々と情報が入ってきて慌ただしかったのですが、社外の編集者さんから、「会社に残っている翻訳書を取り戻すように」とアドバイスをいただきました。差し押さえが入ると手出しができないので、その前に在庫を確保し、現物で印税分を充当するのです。
アドバイスを受け、出版社にその意向をお伝えしました。社長さんは夜逃げをして不在でしたが、残っていた社員さんたちが対応してくださり、在庫を確保することができました。「よかった! うちの子たちを守れた!」という気持ちでした。
実は、別の出版社の倒産もその後経験したのですが、その時は事前に情報が入らず、かなり時間が経ってから知りました。夜逃げではありませんが、翻訳家への連絡はなく、本も処分されてしまっていました。知っていたら在庫を引き取りたかったので、この点は本当に無念です。こちらの出版社とは他の作品でお付き合いがなく、担当編集者さんも退社して時間が経っていたため、情報が入ってこなかったのです。
出版社が倒産してしまうと、著作であれば他の出版社から出すことに自分が合意すれば復刊できますが、翻訳書の場合はそうはいきません。新たな出版社を探して版権を取得するところから始めないといけないのです。また長い道のりです……。
こうして考えてくると、翻訳家が身を守るためにできることがいくつかあります。まずは、そもそも倒産しない出版社を選ぶことですが、これは難しいものです。大手であればある程度安心ですが、第43回の「大手出版社のほうがいいの?」で見たように、大手出版社のデメリットもあります。中小の出版社の経営状態が長年の間にどう変化するかを読むとなると、経営の専門家でもなかなかできることではないでしょう。
すると次善策として、何かあったら情報が入ってくるように、編集者さんとの連絡を欠かさずにおくことでしょう。編集者さんも転職や退職をすることがあるので、その場合は後任の方をしっかり紹介していただきましょう。どうしてもメールで後任の方のご連絡先だけいただくことが多いのですが、それでは関係性をつくることができません。一度何らかの形で顔合わせをしておくのがいいでしょう。
また、編集者さん以外にも業界関係者(これは出版関係者だけでなく、その翻訳した内容の分野の関係者も含みます)との情報交換をしておくことでしょう。
倒産という状況を招かずにすむように、販促のお手伝いを翻訳家の立場からできる限りすることも大切です。そして、もうひとつ。仮に倒産してしまっても復刊できるように、力のある本をつくっておくことでしょう。
復刊については、また次回に詳しくお伝えします。
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