第95回 次の仕事につなげるためには?
『翻訳家になるための7つのステップ』を読んだ方から、こんなリクエストをいただきました。
「この本は『翻訳家になるための』話だからその後のことを扱っていないのはわかるけど、どうすればその次の仕事をとっていけるのかを知りたいです」
次の仕事につなげるための工夫には、最初の仕事の時にできることも多いので、今回はそれをお伝えします。
まずは、納期よりも前倒しで仕事をすること。「締切を守る」だけではなく、自分の中でそれより早い締切を設定して、それを守るようにするのです。もともとの締切自体、ある程度編集者さんのほうで余裕を見て設定されていますから、それに間に合えば問題はありません。とはいえ、早めにもらえたほうが、編集者さんにとってもありがたいのです。日程に余裕があると、不測の事態があっても対応できるので、精神的に楽になれるからです。
ただ、早く渡すことばかりに気をとられ、クオリティを落としてしまっては本末転倒です。直すところが多いと、結局そこで時間を取られて遅れる結果になってしまいます。きちんとクオリティを保ったうえで、というのが前提条件です。
次に、プロセスを理解することです。最初の仕事では、初校や再校などのゲラも初めて見るわけですし、「これってどうすればいいの?」と、右も左もわからない状態かと思います。だけど、一度経験すると、次の仕事では流れがつかめています。もちろん、出版社によって仕事のやり方はそれぞれ違いますので、どの程度細かく詰めてから入稿するかなど、ばらつきがあります。それでも大まかな流れは同じですので、「この後に編集者さんのほうで確認するんだな」「ここでデザイナーさんに渡るんだな」などと流れをつかんでおきましょう。
さらに、自分がプラスアルファでできることを考えましょう。「相手に対してどんなプレゼントができるか」と常に考えるようにしておくと、この答えが見つけやすくなります。最初に挙げた、前倒しで仕事をすることも、相手に時間をプレゼントすることになります。同様に、プロセスの中で自分ができることもあるはずです。ゲラをチェックする際に少しでも編集者さんが見やすいように書くこともそうですし、編集者さんだけがチェックすればすむ箇所にも目を通し、ダブルチェックによって見落としを防ぐこともそうです。実際、見落としもあるものなので、見つければ役立つことができます。何もできそうになければ、打ち合わせの際に差し入れを持参するなどでも構いません。気持ちよく仕事ができる環境をつくることも、貢献のひとつですから。
発売後には、その本を売るためにできる限りのことをしてください。せっかくいい雰囲気で仕事ができて、いい本になっても、売れ行きがいまいちだと、なんだか残念な気持ちになってしまいます。だけど売れ行きがいいと、「また次も一緒にやりましょう!」となるものです。それに、本がヒット作になれば、本の認知度が高まることによって、「この本の翻訳家に依頼しよう」と仕事が来ることになります。
そして、編集者さんとの関係を維持していくことです。本づくりはプロジェクトでの働き方に似ていて、一時的にものすごく密にやり取りをしますが、完成後はそれがなくなります。一度でもご一緒していれば、その時の経験が濃いので次も入りやすいのですが、何年も連絡がないまま間が空くとさすがに距離ができてしまいます。お互いの相性もありますし、人間的に好きになれない相手とまで無理に付き合う必要はありませんが、またご一緒したい方なら、ご縁をつないでおきましょう。第84回の「編集者さんとはどう付き合えばいいの?」もご参考になさってくださいね。
次のお仕事につなげるヒントになればうれしいです。
※この連載を書籍化した『翻訳家になるための7つのステップ 知っておきたい「翻訳以外」のこと』が発売中です。どうぞよろしくお願いいたします。