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第94回 持ち込み先を探すヒント

寺田 真理子

あなたを出版翻訳家にする7つの魔法

今回は、企画書の持ち込み先を探すヒントをお伝えします。

どこの出版社に持ち込んだらいいかを考えるときに、まずは類書の出版社を候補にすることを第20回の「出版社に持ち込む」でお伝えしました。これが基本的な考え方ですが、それだけではかなり限られてしまうこともあります。そのときは第28回の「裏技~文脈をつくる」を参考に、あなたの手がけたい原書が日本の既存の本の中でどんな位置づけにあるのかを捉えて、文脈をつくってあげてください。

切り口を変えることも考えてみてください。第90回の「原著者にどうアプローチすればいいの?」でお伝えしたように、学術書であればビジネス書として、あるいは実用書として形態を変えて出版する方法もあります。

内容に焦点を当てて考えることもできます。たとえば料理が多く登場するミステリだとしたら、ミステリ専門の出版社だけではなく、料理の本を多く手がけている出版社に持ち込むことも考えられます。そのほうがむしろ、新鮮に感じてもらえるかもしれません。

ただし、その際は単に料理が多く登場していることを謳うのではなく、細かいところまで詰めていきましょう。たとえば「〇ページで登場するラムの赤ワイン煮込みは、御社から刊行されている『○○』に登場しますし、〇ページのデミグラスソースは同じく『○○』で扱われています」という具合です。『○○』がヒット中の料理本であれば、著者のコメントや推薦を帯にもらうなど、タイアップして売っていくことも提案できるでしょう。また、各種の料理が登場するなら、刊行されている複数冊の料理本とともに、既存の刊行物の認知度を高めていく役割を果たせるとアピールできるでしょう。

逆のパターンで、あなたが手がけたいのが料理の本であれば、その料理が登場する作品を探したり、マッチしそうな雰囲気の作品を探すことで持ち込み先の候補を増やせます。たとえば、一風変わったスパイス料理が多く扱われているなら、「魔女の料理」のような扱いにして、魔法を扱ったファンタジー系の出版物が多いところに持ち込む。あるいはハロウィンシーズンを狙ってハロウィンのカテゴリで考えることもできるでしょう。シーズンものだと期間に限りがありますが、毎年そのシーズンがあるわけですから、定番になれば寿命の長い本にできます。

もうひとつは、「ヒット作を出していて景気のよさそうな出版社を探す」ことです。出版翻訳は、アドバンスという原書の出版社に支払う前払い金があるために、敬遠されてしまうことがあります。経営状況がよくないと、いくら面白そうな企画でも、尻込みされてしまうのです。それよりも手堅く部数が見込めそうな企画が選ばれてしまいがちです。だけどヒット作が出て売上が好調だと、余力があるので「面白そうだからやってみようか」となるのです。

出版翻訳から離れていく出版社もあります。実際、某大手出版社の編集者さんからも、社内でのハードルが高くなっていると最近聞きました。その一方で、新たに出版翻訳を始めたいと乗り出している出版社もあるのです。

私は興味を持った出版社があると、どんな会社なのかをよくチェックするのですが、中には「これから出版翻訳に力を入れたいので新たに部門を立ち上げる」といって編集者さんを募集しているところもあるのです。探せばあるものなんですよね。これはなにも出版業界にいる人間でなくても、普通にネット検索でたどり着ける情報です。普段からアンテナを張ってリサーチすることです。

類書の出版社にあたってうまくいかないと、そこであきらめてしまいがちです。だけど実際には、まだまだ可能性はあるのです。粘り強く、あの手この手で試してみてくださいね。

※この連載を書籍化した『翻訳家になるための7つのステップ 知っておきたい「翻訳以外」のこと』が発売中です。どうぞよろしくお願いいたします。

Written by

記事を書いた人

寺田 真理子

日本読書療法学会会長
パーソンセンタードケア研究会講師
日本メンタルヘルス協会公認心理カウンセラー

長崎県出身。幼少時より南米諸国に滞在。東京大学法学部卒業。
多数の外資系企業での通訳を経て、現在は講演、執筆、翻訳活動。
出版翻訳家として認知症ケアの分野を中心に英語の専門書を多数出版するほか、スペイン語では絵本と小説も手がけている。日本読書療法学会を設立し、国際的に活動中。
ブログ:https://ameblo.jp/teradamariko/


『認知症の介護のために知っておきたい大切なこと~パーソンセンタードケア入門』(Bricolage)
『介護職のための実践!パーソンセンタードケア~認知症ケアの参考書』(筒井書房)
『リーダーのためのパーソンセンタードケア~認知症介護のチームづくり』(CLC)
『私の声が聞こえますか』(雲母書房)
『パーソンセンタードケアで考える認知症ケアの倫理』(クリエイツかもがわ)
『認知症を乗り越えて生きる』(クリエイツかもがわ)
『なにか、わたしにできることは?』(西村書店)
『虹色のコーラス』(西村書店)
『ありがとう 愛を!』(中央法規出版)

『うつの世界にさよならする100冊の本』(SBクリエイティブ)
『日日是幸日』(CLC)
『パーソンセンタードケア講座』(CLC)

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