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第92回 企画書にレビューを活用するには?

寺田 真理子

あなたを出版翻訳家にする7つの魔法

翻訳したい原書を見つけて、企画書をつくるとき。書籍概要をまとめようとして、困ることがあります。「売り」になるものがないのです。

たとえば「○○賞受賞!」「アメリカでは発売初週にミリオンセラーに!」「映画化決定!」といった、「この本は売れますよ」とわかりやすく伝えてくれるものがあれば助かります。だけど、とてもいい本で、すごく惚れ込んでいるけれど、客観的にアピールできるものが何もない……そんな場合に私が活用しているのが、Amazonなどの読者レビューです。

レビューが多くついていたり、評価が高かったりすれば、それ自体がアピールになります。日本のAmazonではレビューがほとんどなくても、原書の本国のほうでは何百件もレビューがついているケースもあるので、確認してみましょう。「アメリカのAmazonでは500件を超えるレビューが寄せられている」「レビューの星平均4.5」などと企画書に盛り込むことができます。

読者の中には、熱い思いを込めたレビューを書き込んでいる方がいるものです。自分がまとめた書籍概要よりもそちらのほうがうまく本の魅力を伝えてくれていたり、自分が読み込めていなかった部分まで掬い上げてくれていたりします。その情報を基に、書籍概要を練り上げることができます。

さらに、レビューを見ていくことで、その原書がどのように読まれているのかを知ることができます。たとえば、ある絵本では、「うちの4歳の娘の大のお気に入りで、何度も『読んで』ってせがまれています」とありました。こういう情報があると、「日本でもこの年頃の子のお気に入りの一冊になるかもしれないな」と出版翻訳後のイメージが湧いてきます。

また、「学校の図書リストにあったので読んでみたらすごく気に入った」「この本はうちのクラスの子どもたちにぜひ読ませたい」といったレビューを目にしたこともあります。すると、「原書は教育現場でも活用されているんだな」とわかって企画書にも盛り込めますし、「日本でも教育関係者に知ってもらうように働きかけていくといいかもしれない」という具合に、アプローチすべき読者層も見えてきます。

中には、意外な読み方をされているケースもあるでしょう。たとえば、学術書だけどビジネスパーソンに愛読者が多いとわかったとします。その場合、通常の学術書として出版翻訳するよりも、専門的過ぎる内容を削ったうえで、ビジネス書に強い出版社からビジネス書として出版翻訳することも考えられます。そのほうが多くの読者を獲得できるかもしれません。

本の読み方は人によって様々なので、他の方たちがどう読んだかを知ることで、自分ひとりでは見つけられなかった本の魅力を発見することができます。そしてどのように読まれているのかを知ることで、原書のいわば「生きている文脈」を捉えることができます。そうすれば、単に企画書に役立てられるだけでなく、編集者さんへのプレゼンの際にも活かせるでしょう。さらに、発売後のアプローチまで見えてくれば、出版翻訳もしやすくなるでしょう。

困ったときには、レビューを活用して突破口を見つけてくださいね。

※この連載を書籍化した『翻訳家になるための7つのステップ 知っておきたい「翻訳以外」のこと』が発売中です。どうぞよろしくお願いいたします。

Written by

記事を書いた人

寺田 真理子

日本読書療法学会会長
パーソンセンタードケア研究会講師
日本メンタルヘルス協会公認心理カウンセラー

長崎県出身。幼少時より南米諸国に滞在。東京大学法学部卒業。
多数の外資系企業での通訳を経て、現在は講演、執筆、翻訳活動。
出版翻訳家として認知症ケアの分野を中心に英語の専門書を多数出版するほか、スペイン語では絵本と小説も手がけている。日本読書療法学会を設立し、国際的に活動中。
ブログ:https://ameblo.jp/teradamariko/


『認知症の介護のために知っておきたい大切なこと~パーソンセンタードケア入門』(Bricolage)
『介護職のための実践!パーソンセンタードケア~認知症ケアの参考書』(筒井書房)
『リーダーのためのパーソンセンタードケア~認知症介護のチームづくり』(CLC)
『私の声が聞こえますか』(雲母書房)
『パーソンセンタードケアで考える認知症ケアの倫理』(クリエイツかもがわ)
『認知症を乗り越えて生きる』(クリエイツかもがわ)
『なにか、わたしにできることは?』(西村書店)
『虹色のコーラス』(西村書店)
『ありがとう 愛を!』(中央法規出版)

『うつの世界にさよならする100冊の本』(SBクリエイティブ)
『日日是幸日』(CLC)
『パーソンセンタードケア講座』(CLC)

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