TRANSLATION

第91回 どうやって催促すればいいの?

寺田 真理子

あなたを出版翻訳家にする7つの魔法

今回は、いただいたこちらのご質問にお答えします。

「編集者さんに企画をお預けして、検討してくれるということだったのですが、その後ご連絡がないままです。どうやって催促すればいいのでしょうか?」

第87回の「待っている時に大切なこと」でお伝えしたように、自分にとって唯一の企画を待っているあなたと、多くの企画を抱えている編集者さんでは時間の感覚が違うので、基本的にはあまりせっつかないほうがよい結果につながると思います。

ただ、最初にすごく前向きなお返事があったのに、その後動きがないまま3か月くらい経ってしまった……という場合であれば、催促してみてもいいでしょう。その際、メールでご連絡することになりますが、どんな文面にすればいいのか、頭を抱えるところですよね。

そこでおすすめなのは、たとえばお預けしている原書の著者の新刊情報など、何か新しい情報を提供することです。そう頻繁に新刊が出るわけでもないでしょうから、何かその原書にまつわる話題があれば、それで構いません。「それもありません!」という場合は、ちょっとした時候の挨拶でもいいでしょう。要は、「ワンクッション置く」ということと、できれば単に相手に行動を要求するだけでなく、「こちらからも何かを与えることができれば望ましい」ということです。その「何か」が、企画を前に進めるのに役立つものであれば理想的ですね。

編集者さんもおそらくは覚えてくれているのでしょうが、日々の忙しさに紛れつつ、「申し訳ないな」と思いながらもそのままになっているケースが大半かと思います。そうであれば、催促のメールをもらうことで連絡をしやすくなるでしょう。

気をつけたいのは、「こんなに待っているのに、まだなんですか」と相手を責める調子にならないことです。ただでさえ、何かを催促されるのはうれしいものではないですよね。「やるべきことをやっていない」と指摘されるわけですから。申し訳ないという思いがあればなおさら、責められている気持ちになってしまいます。

そこで試していただきたいのが、「自分を主語にして伝える」ことです。心理学ではこれを「I(アイ)メッセージ」と言います。「まだなんですか」というのは、「あなたはどうしてまだ連絡をくれないんですか」と相手を主語にして伝えているので、「YOUメッセージ」と呼ばれます。YOUメッセージだと、どうしても批判的に受け取られてしまうことがあるのです。この状況であなたは、「忘れられているんじゃないかという心配」があるから、相手からの連絡がほしいわけですよね。だったら、「しばらくご連絡がなかったので、もしかして忘れられてしまったのかもと心配になって……」と「Iメッセージ」で自分の気持ちを伝えるようにしてみましょう。これなら、催促のメッセージも相手にとって受け取りやすくなります。

たまにですが、本当にうっかり忘れてしまっていた(!)というケースもあります(笑)

いずれにしても、催促の結果、よい形で企画が動き出すことを願っています。

※この連載を書籍化した『翻訳家になるための7つのステップ 知っておきたい「翻訳以外」のこと』が発売中です。どうぞよろしくお願いいたします。

Written by

記事を書いた人

寺田 真理子

日本読書療法学会会長
パーソンセンタードケア研究会講師
日本メンタルヘルス協会公認心理カウンセラー

長崎県出身。幼少時より南米諸国に滞在。東京大学法学部卒業。
多数の外資系企業での通訳を経て、現在は講演、執筆、翻訳活動。
出版翻訳家として認知症ケアの分野を中心に英語の専門書を多数出版するほか、スペイン語では絵本と小説も手がけている。日本読書療法学会を設立し、国際的に活動中。
ブログ:https://ameblo.jp/teradamariko/


『認知症の介護のために知っておきたい大切なこと~パーソンセンタードケア入門』(Bricolage)
『介護職のための実践!パーソンセンタードケア~認知症ケアの参考書』(筒井書房)
『リーダーのためのパーソンセンタードケア~認知症介護のチームづくり』(CLC)
『私の声が聞こえますか』(雲母書房)
『パーソンセンタードケアで考える認知症ケアの倫理』(クリエイツかもがわ)
『認知症を乗り越えて生きる』(クリエイツかもがわ)
『なにか、わたしにできることは?』(西村書店)
『虹色のコーラス』(西村書店)
『ありがとう 愛を!』(中央法規出版)

『うつの世界にさよならする100冊の本』(SBクリエイティブ)
『日日是幸日』(CLC)
『パーソンセンタードケア講座』(CLC)

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