第90回 原著者にどうアプローチすればいいの?
今回は、いただいたこちらのご質問にお答えします。
「原著者にコンタクトを取る方法について、具体的な文面を知りたいと思っております。当方、数年間翻訳学校に通った経験があり、過去に数冊ほど出版した経験があります(翻訳学校の先生からの紹介でした)。そして、現在ぜひ出版したい本があり、関連する資格も持っておりますが、現在は完全にフリーのため、出版社に企画書を持ち込んでも見向きもされません。原著者のオフィスの住所やツイッターはわかっているため、いっそ原著者に直接コンタクトを取ろうと思っておりますが、どのような文面がいいか、わかりません」
原著者の心を動かすのは、重要な順に、次の4つです。
①熱意
②人としての信頼性
③著作物への理解度
④翻訳家としての実績
以下、それぞれに説明していきましょう。
①実績より何より、まずは熱意が問われます。「そこまで言うなら、お願いします」という気持ちにさせることです。そのために、あなたがその本をどうして出版したいと思ったのか、どこにそれほど強く惹かれたのかを言葉を尽くして伝えてください。そのうえで、現状では出版翻訳がきびしいことを説明し、原著者の許可があることで企画が進めやすくなるのでぜひ許可をいただきたいとお願いしましょう。
②面識のない相手はどうしても不信感を持たれがちなものですので、仕事相手としてきちんとした人であることも伝えてください。これは文面でどのような単語を使うかだけでなく、自己都合を並べ立てる内容にならないように注意することも含みます。
笹根由恵さんも、原著者のドミニック・ローホーさんとお話した際、「あなたはいい人そうだから訳してもいいわよ」と許可を得ることができました。翻訳力のチェックはその後で、人柄が大切なのですね。これは、越前敏弥さんのお話にあった、下訳を任せるときの判断基準で、卓越した翻訳力よりも締切を守れることや一緒に仕事をして楽しい人であることが先に来るのにも通じる話かと思います。
③どれだけその本を深く読み込めているかを伝えましょう。また、日本の市場での位置づけも考え、現在の市場にない、どんな新しい価値をその本が提供できると考えているのかを伝えます。
④これまで翻訳してきた著作を挙げるだけでなく、その本に関する資格や読んできた本なども挙げられると思います。
上記を満たす文面ができれば、原著者の方にもきちんと対応していただけるでしょう。ただ、その一方で、やはり出版社を探す努力も続けていく必要があります。
これまでに翻訳学校の先生の紹介で本を出してこられたとのこと。その先生にまた別の出版社をご紹介いただく、あるいはこれまでの担当編集者さんに、今回の企画に興味を持ってくれそうな出版社をご紹介いただくことも考えられます。
他にも、切り口を変えることができます。学術書であればビジネス書として、あるいは実用書として、形態を変えて出版する方法もあります。また、もし類書を刊行している日本の著者の方がいたら、その方に連絡をとって監修をお願いすることも考えられます。まだまだ手段はあるはずです。うまくお話が進みますよう、願っております。
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