第84回 編集者さんとはどう付き合えばいいの?
今回は、こちらのご質問にお答えします。
「編集者さんと知り合っても、すぐにお仕事に結びつかないことも多いと思うのですが、どうお付き合いしていけばいいのでしょうか?」
持ち込みを始めると、編集者さんの知り合いも増えてくると思います。たとえば3か月くらいの短期で考えると、ご一緒できる可能性はほとんどないでしょう。だけど3年、5年くらいの長期で考えてみると、その間にお互いの興味、関心がうまく重なって、ご一緒できることもあると思うのです。その時に気持ちよくお仕事ができるようにしておきたいものですね。
そのために大切なのは、「忘れられないようにすること」でしょう。編集者さんはお仕事柄多くの方とお会いするので、お仕事をしたことがある相手ならともかく、持ち込みをしただけ、名刺交換をしただけであれば、すぐに忘れられてしまいます。
そこで、思い出してもらう機会をつくることです。第34回のインタビューで、越前敏弥さんは、リーディングの仕事がないか打診してみることを挙げていました。ここでのポイントは「しつこくない程度に」でしょう。そこで仕事がなければ「それでは、また何かあればよろしくお願いします」と次につながるように好印象を残してスッと消えます。そこでしつこくして、「やたらうるさく仕事をねだってきた人」になってしまっては逆効果ですから。
越前さんは、編集者さんが手がけた本の感想を伝えることも勧めています。自分の手がけた本の感想であれば、編集者さんは必ず目を通しますので、印象に残るでしょう。単に本を読んで感想をくれるだけでもうれしいことですが、できればもう一歩進めたいもの。
まずは、あなた自身の感想を丁寧に伝えることです。そのうえで、編集者さんが気を遣ったであろうポイントをあなたがわかっていると伝えてほしいのです。たとえば類書で同じ内容のものがあるけれども、この本はポイントを強調して整理してあるので読みやすいとか、初心者向けにわかりやすく噛み砕いてあるとか、レイアウトが工夫されていて文字は小さいのに読みやすいとか、多数のこだわりがあるはずなのです。そこを見つけて、「あなたがこだわったことはちゃんと功を奏していますよ。私はそれを受け取りましたよ」ということを伝えてほしいのです。そうすることで、あなたが「つくり手側の視点を共有している」ことを示せるからです。未経験の方に仕事を頼む際に編集者さんが不安に思うのは、翻訳の実力が未知数なのもありますが、自分が翻訳することしか頭になくて、本をつくるうえでの翻訳家の立ち位置が見えていないことです。そこで、つくり手側の視点を共有していることをアピールできれば、その不安を解消できます。仕事を頼んでも大丈夫な相手だと思ってもらえるのです。
また、もし販売で協力できることがあればしてみましょう。友人にプレゼントした、何冊購入した等々、営業面でも力になれることを伝えましょう。ただし、この点については、ジャンルによって評価基準が違います。ビジネス書や自己啓発書であれば、それこそ「100冊買いました!」ということがプラスに働きますが、文芸書であれば、その数字はもちろんありがたいのですが、それよりも、どれだけ作品を深く読み込んだかを伝えるほうが信頼につながります。
連絡をとる際はメールが多いでしょうが、多数のメールに埋もれてしまわないように、件名も「新刊の『○○』を拝読しました」など、すぐに目に留まるものにしてください。メールの文面での日本語がしっかりしていることは言うまでもありません。「こんなメールを書くようじゃとても翻訳は任せられない」と思われてしまっては困りますものね。
編集者さんが手がけた本を読むことは、自分の読書の幅を広げるのにもいいと思います。普段読まないジャンルの本でも、知っている方が手がけていると思うと、読むハードルも下がります。そしてその本を読むことで、編集者さんがどこに関心をもっているのか、あなた自身の関心と重なる部分を探っていくことができます。
大切なのは、見返りを求めないことです。「これだけやったから仕事をもらえる」と変な期待があると、仕事につながらない時にがっかりします。それ以前に、下心が溢れ出て爽やかさを曇らせてしまいます(笑)。たとえ仕事につながらなくても、その編集者さんをきっかけに新しい本が読めたのなら、あなたの経験値にとってはプラスなのですから。
あなたの仕事状況に進捗があれば、それも報告しましょう。新しく資格を取った、下訳をやった、リーディングを任せてもらえることになった等々。残暑見舞いや新年のご挨拶といった折に報告をして、着実に進歩していることを知ってもらいましょう。あまり無理をすることはありませんが、知り合った編集者さんがいい雰囲気の方だと感じたなら、お仕事でもきっといい作品ができると思います。その時が来るまで、ご縁をつないでおきましょう。
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