TRANSLATION

第82回 動画で総復習&翻訳の勉強法

寺田 真理子

あなたを出版翻訳家にする7つの魔法

この連載を書籍化した『翻訳家になるための7つのステップ』の出版記念トークショーの動画が公開されています。かなり詳しく解説させていただいたので、連載でお届けした内容の総復習にぜひお役立てくださいね。
youtube https://www.youtube.com/watch?v=GupxjZ92g9c&w=560&h=315
(前回の連載で生配信の告知をさせていただきましたが、当日は手続き上の問題で生配信ができず、収録後の配信となりました。ご予定くださっていたみなさまに申し訳なく、心よりお詫び申し上げます。)

さて、今回は翻訳の勉強法についてお伝えします。といっても、私には「この勉強法がいちばん」とおすすめできるものはありません。勉強法で大切なのは自分に合っていることで、何が合うかは人それぞれだからです。学校に通って伸びる方もいれば、自分で教材を使って学ぶのが向いている方もいます。読むことで頭に入る方もいれば、聞くことで記憶に残る方もいるでしょう。まずは、自分の適性を見極めることです。

翻訳関連の技術書などを読むのも、役立つひとつの方法です。「翻訳の勉強に行き詰まったときにヒントをくれる本」を紹介していますので、ご参考になればうれしいです。ただ、本を読むのは、できれば実際に翻訳の仕事をやってみてからのほうが効果的です。仕事をする前に少しでも準備をしたいと思って読むのでしょうし、それは素晴らしいことなのですが、実体験が伴わないと、どうしても観念的に知識を詰め込んで終わってしまうからです。その点、実体験があると、「なるほど、ああいう場合にこうすればよかったのか」と具体的な記憶とともに身をもって学べます。ときには、「こ、これを知っていれば……」と、自分の浅はかさに気づく痛い経験もありますが、それも実体験があればこそ。事前に知識として覚えただけでは、きっと気づかないんですよね。

気に入った翻訳書を原書と照らし合わせて読むのも勉強になります。日本での実情に即して手を入れることも多いので、必ずしも一対一で対応しているわけではありませんが、「ここをこう訳すのか」と視野が拓けます。表現などが勉強になるのはもちろんですが、何よりも、「ここまで思い切って訳していいんだ!」とわかることが大きいと思います。自分で訳しているとどうしても原文に引きずられてしまい、跳ぼうとしてもなかなか跳べないのが、ものすごい大ジャンプをしているのを目の当たりにするようなものです。かなりの意訳になっているのに、原文の意図するところをまさに伝えてあるのを見ると、「もう一歩踏み込んで訳してみよう」と背中を押してもらえます。

余談ですが、たまに誤訳を見つけたりすると、「こんな素晴らしいお仕事をされる方でも誤訳があるのか!」と、なんだかとても励まされます。偉人の失敗談を知ったときのような感覚ですね。

次に、インプットについて。量が質に転化するということはあるので、やはり大量に読むことです。以前に通訳学校に通っていた頃、「毎年本棚がひとつ増えるくらいの本を読まなければプロとしてやっていけない」という話を先生から聞きました。こちらの対談記事でお話させていただいたように、現在の私の読書量が年間300冊程度なので、ちょうど該当するでしょうか。長年第一線で活躍されている翻訳家や作家の方のお話を伺うと、やはりインプットの量がものすごいです。おそらく私の3倍はあるでしょう。

誤解のないようにお伝えしておくと、単に速く読むとか量をこなすことをよしとしているわけでは決してありません。一冊の本を何年もかけて読み終えたり、ゆっくり文章を味わったり。そこにある深さや豊かさはとても大切にしたいものです。ただ、プロとしてずっと仕事をしていくとなったときに、相当量のインプットは仕事を担保してくれるものとして欠かせないのです。

もうひとつは、面倒くさがらずに辞書を引いて地道に語彙を増やすこと。つい先日も『南仏プロヴァンスの25年 あのころと今』という本を読んでいました。とても素敵な翻訳にうっとりしつつ、しょっちゅう辞書を引いてはメモしていました。たとえば「見場よく按排されて」「白皚々たる無音の雪原」「万朶の花がピンクと白に咲き競う」という具合。「わ、私からはこんな表現は出てこない……」「そ、それ以前にこの語彙がない……」「そ、そもそも読めない……」と打ちのめされながらも、調べればわかることですし、わかれば使う機会をつくっていけますからね。

ここまで読んでいただければおわかりの通り、勉強法もやはり、地味で地道なのでした。手っ取り早いものを求めているとがっかりするかもしれませんが、うれしい情報をひとつ。地味で地道なことは、時間が味方をしてくれるのです。短期的に見ると効果を感じられないかもしれませんが、時間軸を長くとると、必ずじわじわと効いてきますよ。ぜひ、続けてみてくださいね。

「工藤浩美のプロフェッショナル対談」に登場させていただきました。ぜひご覧くださいませ。

Written by

記事を書いた人

寺田 真理子

日本読書療法学会会長
パーソンセンタードケア研究会講師
日本メンタルヘルス協会公認心理カウンセラー

長崎県出身。幼少時より南米諸国に滞在。東京大学法学部卒業。
多数の外資系企業での通訳を経て、現在は講演、執筆、翻訳活動。
出版翻訳家として認知症ケアの分野を中心に英語の専門書を多数出版するほか、スペイン語では絵本と小説も手がけている。日本読書療法学会を設立し、国際的に活動中。
ブログ:https://ameblo.jp/teradamariko/


『認知症の介護のために知っておきたい大切なこと~パーソンセンタードケア入門』(Bricolage)
『介護職のための実践!パーソンセンタードケア~認知症ケアの参考書』(筒井書房)
『リーダーのためのパーソンセンタードケア~認知症介護のチームづくり』(CLC)
『私の声が聞こえますか』(雲母書房)
『パーソンセンタードケアで考える認知症ケアの倫理』(クリエイツかもがわ)
『認知症を乗り越えて生きる』(クリエイツかもがわ)
『なにか、わたしにできることは?』(西村書店)
『虹色のコーラス』(西村書店)
『ありがとう 愛を!』(中央法規出版)

『うつの世界にさよならする100冊の本』(SBクリエイティブ)
『日日是幸日』(CLC)
『パーソンセンタードケア講座』(CLC)

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