TRANSLATION

第76回 コピーでもいいの?

寺田 真理子

あなたを出版翻訳家にする7つの魔法

今回は、いただいたこちらのご質問にお答えします。

「絵本の企画を出版社に送付する際は、翻訳をつけた絵本のコピーを送ればいいのでしょうか?」

こういう場合は、コピーではなく現物を送るようにしましょう。なぜなら、伝わるものがまったく違うからです。

絵本の色合いは、しっかりと色校正をして再現されています。紙ももちろん、色の再現に適しているだけでなく、手触りや持ち重りなど、あらゆる要素を考慮して選ばれています。一つひとつ吟味されているからこそ伝わるものがあるのです。

それがコピーでは、色合いが変わってしまうばかりか、紙はペラペラ。伝えられる要素が何分の一、いえ、何百分の一にすらなってしまいかねません。せっかく素晴らしい絵本で、がんばって翻訳もしたのに、そんなことで魅力を損なってはもったいないですよね? 本来の魅力をお伝えできるよう、必ず現物を送ってください。

ただ、そうすると問題になるのが、「送った原書が返ってこない」場合です。もちろん、たいていの出版社さんはきちんと管理をしていますので、検討の結果手がけないとなれば返送してくださいます。ただ、中には、長年検討しているうちにそのままになってしまうケースも……。

そして原書を入手しようと思ったら絶版になっていて、何万円もする中古品しか市場になかったり、ソフトカバーしか売っていなかったり。日本では見かけませんが、単行本がしばらくして文庫化されるように、海外の絵本では紙質を落としたソフトカバーの廉価版が販売されることがあります。そうすると元々のハードカバーでの販売をしなくなってしまい、入手できなくなることもあるのです。

こういう事態を防ぐには、あらかじめ返送用の封筒などを一緒に送るのもひとつの手です。かといってそれでは、持ち込む段階から早くも断られるのを前提としているようで、気が進まないですよね……。

結局、「心配だったらあらかじめ原書を複数冊買っておく」というのがいちばんの解決策かと思います。

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※この連載では、読者の方からのご質問やご相談にお答えしていきます。こちら(私の主宰する日本読書療法学会のお問い合わせ欄になります)からご連絡いただければ、個別にお答えしていくほか、個人情報を出さない形で連載の中でご紹介していきます。リクエストもあわせて受け付けています。

Written by

記事を書いた人

寺田 真理子

日本読書療法学会会長
パーソンセンタードケア研究会講師
日本メンタルヘルス協会公認心理カウンセラー

長崎県出身。幼少時より南米諸国に滞在。東京大学法学部卒業。
多数の外資系企業での通訳を経て、現在は講演、執筆、翻訳活動。
出版翻訳家として認知症ケアの分野を中心に英語の専門書を多数出版するほか、スペイン語では絵本と小説も手がけている。日本読書療法学会を設立し、国際的に活動中。
ブログ:https://ameblo.jp/teradamariko/


『認知症の介護のために知っておきたい大切なこと~パーソンセンタードケア入門』(Bricolage)
『介護職のための実践!パーソンセンタードケア~認知症ケアの参考書』(筒井書房)
『リーダーのためのパーソンセンタードケア~認知症介護のチームづくり』(CLC)
『私の声が聞こえますか』(雲母書房)
『パーソンセンタードケアで考える認知症ケアの倫理』(クリエイツかもがわ)
『認知症を乗り越えて生きる』(クリエイツかもがわ)
『なにか、わたしにできることは?』(西村書店)
『虹色のコーラス』(西村書店)
『ありがとう 愛を!』(中央法規出版)

『うつの世界にさよならする100冊の本』(SBクリエイティブ)
『日日是幸日』(CLC)
『パーソンセンタードケア講座』(CLC)

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