第74回 持ち込みから出版まで
心理的な壁を乗り越え、書籍化の企画を持ち込んだところ、編集者さんから早速ご連絡があり、お会いすることになりました。
企画内容と連載のサンプル原稿は事前にお送りしていましたので、当日はお互いの自己紹介の後、どんな内容の本をどんな読者の方々に向けてつくりたいのかをお話しました。社内の企画会議で出版が決まるのですが、その前にお互いの認識をすり合わせておくのです。その際に、
「あ……忘れてた!」
と思ったことがあります。類書をまったくチェックしていなかったのです。この連載では「類書をきちんと検討するように」と何度もお伝えしておきながら、自分のこととなるとすっかり忘れているという……(苦笑)。
でも、ありがたいことに、編集者さんがすでに類書をチェックしてご用意くださっていたのです。私はといえば、「へえ~、こんな本があるんですね! おもしろそう!」と喜んでメモしていました。内容がかぶっていなくてよかったです……。
実際には、持ち込み企画に対して編集者さんがそこまで事前準備をされることはあまりないでしょう。熱心にご対応いただけたのは、編集者さんご自身のご関心と重なったことが大きいと思います。翻訳書を愛読されていて、翻訳家の存在や、翻訳家に必要な情報を提供して人材を育成することをとても大事に思ってくださっていたのです。
第52回の植西聰さんのインタビューで、編集者さんが興味があればやるし、興味がなければやらないというお話がありました。また、「第22回 断られたら……」で、興味を持ってくれる出版社が10社のうち1社あったとして、その1社に最初から当たる場合もあれば、9社に断られて最後の10社目で当たる場合もあるとお伝えしました。今回は、最初から興味を持っていただけた幸運なケースだったと思います。
打ち合わせの最後で、「企画会議でお伝えしておきたいことはありますか」とのご質問に、「落雷火災経験者なので、御社とはご縁があると思います!」と、よくわからない雷アピールをしました……。それが功を奏したのか(?)、今年の1月に無事に企画会議で出版が決まり、そこから正式に動き出したのです。
すでに連載原稿があるから楽に書籍化できるかといえば、そんなに甘いものではありません。まずは原稿を整理して、どういう順番でどうお伝えしていくかを見直します。そのうえで表記を統一し(たとえば「ひとつ」にするのか「一つ」にするのかなど)、どうすればもっと意を尽くせるかと考え考え、加筆修正していきます。句読点の位置をああでもない、こうでもないと修正し……
ほんっとうに地味! 地道!
な作業の連続です。そしてデザインが決まり、それにあわせて分量を調整してまたまたこの地味な作業を繰り返し、さらに社内の編集者さんたちや外部の校正者さんに校正していただき……。
それでも、まだ直すところが出てくるのです。たとえば行頭で一字だけ「す。」とあったら見栄えが悪いですよね。だからそれをなくすために文章に手を入れて文字数を調整するのです。
そこまでやっても、初校や再校になると、「やっぱりここはこうしたほうが」という箇所が出てくるものなのです。あらためて強調しますが、
ほんっとうに地味! 地道!
なのです。しかも、私も真面目なので、修正箇所だけではなく全部の原稿をその都度読み返さないと気がすまないのです。いったい何十回読んだことでしょう……。
そんな作業を、なんだかんだで嬉々としてやっているんですよね。やっぱり、本に関わる人間は、本が好きなんだなと自覚しました。きっと、基本にそれがないと、仕事として続けていくのはつらいでしょうね。
そんな長い道のりを経て、ようやく見本が完成しました!
本が完成したので、これで私の仕事はおしまい……ではありません!
次回の連載では、出版翻訳家(今回は著者ですが)と営業についてお伝えします。
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