第67回 原書の検討プロセス②
どんな原書をどうやって見つけたのか、出版翻訳する価値があるかをどう見極めているのか、第66回に引き続きお伝えします。
②難民をテーマにした絵本
著者名で検索していて見つけました。数年前にも同様に検索し、新作を見つけたものの、絵柄が好みではありませんでした。絵本の場合、著者が同じでも、絵を担当する方によってまったく違う雰囲気の作品になってしまうものです。当時はそのために読むことはなかったのですが、最近になって検索してみたところ、おもしろそうな作品が出ていたのです。今回は絵柄も好みでしたので、取り寄せて読んでみました。
内容は難民をテーマにしたもので、子どもたちが集まって話をしていく中で、難民の事情に思いを巡らせていきます。物事の解釈の仕方や相手への思いやりの中に、子どもらしい発想が表れていて好感を持ちました。
難民問題は重要なテーマですが、それだけにすでにいろいろな形で扱われているのではと思い、調べてみました。すると、たしかに類書は何冊かありましたが、難民の存在を子どもたちに知ってもらうための情報提供が主眼とされていました。大人から子どもに「世の中にはこういうことがあるんだよ」と教えるスタンスがメインです。
本書は子どもたち自身が主役となって自分たちの思いを口にしながら考えていくものなので、そこで類書との差別化ができると考えています。類書の存在は諸刃の剣で、市場があることを示す一方で、そのテーマが出尽くしてしまっている可能性も示しています。ですから、こうして明確な差別化ができることが、出版する意義を訴えるうえで大切になってきます。
また、この著者独特の他者への共感の寄せ方が自分に近いと感じるのです。というのも、私は人と頻繁に連絡をとり合うタイプではなく、親友でも年に1回会うかどうかです。友人の生活や日々のあれこれを知りたいという欲求もなく、どういう人間かというエッセンスがわかっていれば十分です。毎日連絡をとりたいタイプの方からすればひどく冷淡に見えるのですが、人が人を想うスタンスはそれぞれで、頻度が多いから想いが深いというわけでもないでしょう。その点、本書の著者は自分のスタンスと近いように感じて親しみを覚えています。
テーマ性もあり、個人的にも感覚が合うので、こちらもぜひ手がけたいと思い、企画書を用意して試訳もつけています。
企画書をつくるなかでイラストレーターの方のプロフィールを調べていたら、日本で出版翻訳されている作品があることを知りました。日本での既刊本の実績は、持ち込みの際にもアピールできるポイントです。
ただ、気がかりなのは、新型コロナウイルスの影響です。大きな問題が発生した際に、社会的弱者が顧みられなくなるのは世の常です。自分たちのことで手いっぱいの状況になってしまうと、いくら難民問題が重要だといっても、考える気持ちの余裕がなくなってしまうからです。
とはいえ影響の時間軸で見ていくと、今回の新型コロナウイルスよりも難民問題のほうがずっと長く続くでしょう。また、温暖化によって自然災害は多発していますし、国内にいても被災者としての生活をするという意味で、難民問題はある意味他人事ではなく自分たちの問題になっています。
絵本は実用書などと比べて寿命が長いので、10年、20年といった長期的な視点で時代の流れを考えていくことも大切です。そういう大きな文脈で考えたとき、やはり出版する意義のある本だと考えています。
続いて、3冊目の原書は……次回の連載で!
※この連載では、読者の方からのご質問やご相談にお答えしていきます。こちら(私の主宰する日本読書療法学会のお問い合わせ欄になります)からご連絡いただければ、個別にお答えしていくほか、個人情報を出さない形で連載の中でご紹介していきます。リクエストもあわせて受け付けています。