第66回 原書の検討プロセス①
外出自粛で在宅時間が増えた方も多いと思います。かくいう私もそのひとり。今のうちにできることをやっておこうと、買いためていた原書を検討しています。隙間時間には手をつけにくいので、まとまった時間がとれる時にやっておきたいのです。
今回の連載では、どんな本をどうやって見つけたのか、出版翻訳する価値があるかをどう見極めているのか、お伝えします。ご紹介するのは大半が絵本で、英語のものもスペイン語のものもあります。
①動物が主人公の絵本
ネット検索で見つけました。先に他の絵本が目に留まり、そこの出版社が色々とおもしろい絵本を出しているのに気づきました。ラインナップを見ていたところ、すごく色彩感覚のおもしろい作品が目に飛び込んできたのです。カバーイラストだけでも相当なインパクトがあったので、早速取り寄せました。実際に見てみたら、中のイラストも素晴らしいのです。ページをめくるたびに感嘆し、「こういう色彩感覚や表現は、絶対に日本の絵本にはないなあ」と感じました。
そこで肝心の内容は……と読んでみたら、これがまた心に刺さるものでした。主人公の動物は、その種族にふさわしい特徴をまったく備えていないため、「自分は失格かも……」と思ってしまいます。ところが、ある危機に遭遇した時、まさにその「ふさわしくない」特徴があるおかげで、危機を切り抜けることができたのです。
私自身、海外生活が長かったこともあり、「自分は日本で生きていくのには向いていないかも」と思うことがよくありました。だけどその疎外感や違和感がものを書いたり発信したりする今の自分につながっていることもあり、主人公にとても共感する部分があったのです。
そんな個人的な思いに加え、本書の内容は、個を尊重する時代という大きな流れの方向性にも合っています。また、たとえば日本で働く外国人の方々が増えていますが、その子どもたちが学校で苦労することも多いといわれます。そんな子どもたちに自信を与えることができるのではないでしょうか。他にも、学習障害やLGBTなど、様々な文脈での解釈もできそうです。世の中に送り出すことで、励まされる方が多いのではと考えています。
想定される読者が見えてくると、完成した時に学校関係や教育関係者や、移民の対応をされている相談窓口などなど、どういうところにアプローチしていけばいいかも見えてきます。
さらに、主人公の動物は、ある国のシンボルでもあります。調べてみたところ、この動物をメインに扱った作品はこれまで出ていないようなので、出版されるとなれば大使館の応援も得られるかもしれません。
唯一心配だったのは、私が選ぶ絵本は絵柄が怖いと言われてしまうことでしたが、以前にその理由で断られた作品と比べ、本書の絵柄にはそういうシュールな要素はないように感じました。念のため何人かの方にもお見せしてみましたが、怖いという意見はありませんでした。そしてイラストはやはりインパクトがあったようです。
そんなわけで本書はかなり気持ちが入っていて、企画書も用意し、試訳もつけています。
続いて、2冊目の原書は……次回の連載で!
※この連載では、読者の方からのご質問やご相談にお答えしていきます。こちら(私の主宰する日本読書療法学会のお問い合わせ欄になります)からご連絡いただければ、個別にお答えしていくほか、個人情報を出さない形で連載の中でご紹介していきます。リクエストもあわせて受け付けています。