第63回 出版翻訳の収入って?
今回は、いただいたこちらのご質問にお答えします。
「出版翻訳の収入って、どうなってるの?」
出版翻訳は、買い切りというケースも稀にありますが、基本的には印税契約です。
「印税」と聞くと「夢の印税生活」を連想する方も多いようで、だから「出版翻訳でお金もうけができますか?」と尋ねる方もいるのでしょう。
印税契約では、以下のようになります。
「本の定価」×「印税率」×「本の刷り部数」=収入
印税率は翻訳家の実績や出版社の事情などによって変わりますが、4%から8%です。
ある翻訳家の方から、某大手出版社の印税率が3%と聞いて驚いたことがあります。「それはあんまりなのでは……」と思いましたが、刷り部数が通常よりかなり多いケースでしたので、それなら結果的には悪くないのでしょう。
問題は本の刷り部数です。出版不況という言葉がよく聞かれるように、本の販売が大きく落ち込んでいます。初版部数がひと昔前に比べて半分になったという話もよく耳にします。出版翻訳家にとっては、そのまま収入の半減につながります。だからこそ、翻訳するだけでなく、本を買ってもらうための努力が翻訳家にも求められているのでしょう。
『翻訳家で成功する!』には、「印税額15万円から2億3千万円まで」という両極端のケースが登場します。同じように本一冊を翻訳しても、その本がどれだけ売れるかによって、ものすごく印税額に差が出てくるのです。2億3千万円というのは、ある大ヒット作の実例です。定価2000円で印税率6%、190万部の売り上げを記録してこの印税額になりました。
こういうケースがあるので、夢の印税生活を思い描く方も少なくないのでしょうね。ここまでの大ヒットでなくとも、ある程度のヒット作なら年収くらいの額になるわけですし、「本一冊翻訳して年収分なんて、おいしい仕事だ」と思われるのかもしれません。
だけど考えてみてほしいのですが、すべての本がそんなにヒットするわけではありません。ヒットした本の背後には、きっと何十冊もの売れなかった本があるはずなのです。それを考えたら、ヒット作が出てようやくそれまでの分がカバーされたと言えるのではないでしょうか。
翻訳して、それを世に出すまでの労力を考えると、それこそ年収分くらいの経済的な見返りがあってもいいのではと思いますが、実際には「労多くして……」という世界だと思います。
それでも多くの出版翻訳家が翻訳を続けているのは、いつかは夢の印税生活と思っているからではなく(笑)、やっぱり心底好きだからなのでしょう。
※この連載では、読者の方からのご質問やご相談にお答えしていきます。こちら(私の主宰する日本読書療法学会のお問い合わせ欄になります)からご連絡いただければ、個別にお答えしていくほか、個人情報を出さない形で連載の中でご紹介していきます。リクエストもあわせて受け付けています。