第60回 小説翻訳の近道②
小説翻訳のもうひとつの近道は、「ベテランの翻訳家の方に監訳をしていただく」という方法です。
すでに多数の実績のある翻訳家の方なら、出版社にとっても大きな安心材料になるでしょう。
同じようにベテランの方でも、監訳をする方としない方がいます。基本的には、監訳というのはあまり好んでやりたい仕事ではないでしょう。自分で翻訳したほうがはるかに速いですし、完成度も高いのですから。他人の翻訳を直すのは手間暇がかかるばかりか、ストレスにもなります。それでも監訳を引き受けるのは、若手を育てようとのお気持ちからではないでしょうか。
活躍されている方ほど、他の方に引き上げてもらってきた経験があり、その恩返しや恩送りをしたいという思いが強いものです。また、レベルが上がるほど、業界全体への視座も高くなりますので、自分のことだけでなく業界全体のために働くことを考えるものです。
そうやって監訳をされている方を見つけて、お願いしてみるのです。あなたの見つけた原書の類書を探す中で、どんな方が翻訳されているかを見てみましょう。いくつか見ていく中で、複数の方が翻訳していて、監訳者がいるケースが見つかるでしょう。
「でも、監訳をしてもらえるのはお弟子さんとかじゃないの?」と思うかもしれません。長年その方の下で勉強していて、実力や人柄を十分把握してもらっているから、仕事を任せてもらえるのですね。
ということは、あなたの実力と人柄が監訳をしてあげるのにふさわしいと思ってもらえれば、引き受けてもらえるわけですよね。だったら、ここでも逆算してください。どうすれば、そう思ってもらえるでしょうか?
ここでいちばん大切なのは、監訳してもらう、つまりお名前を貸していただくことの意味を心から理解することです。あなたは今、一冊の本を出すだけでもものすごく大変な思いをされていると思います。そんな思いを何十冊分もされてきたということが、どれだけ大変なことかを想像してみてほしいのです。そのうえで、その実績を貸してくださると考えると……どれだけありがたいことか、きっとわかるはずです。その方のお名前に決して傷をつけてはいけないのだと深く、深く心に留めること。まずはそこからです。
相手の貴重なお時間を少しでも無駄にしてしまうことのないよう、翻訳はできる限り練り上げましょう。企画書やサンプルの翻訳など、必要な資料をきちんと用意をしたうえでお願いに行きましょう。では、どうやってお願いすればいいのか……次回の連載で!
※この連載では、読者の方からのご質問やご相談にお答えしていきます。こちら(私の主宰する日本読書療法学会のお問い合わせ欄になります)からご連絡いただければ、個別にお答えしていくほか、個人情報を出さない形で連載の中でご紹介していきます。リクエストもあわせて受け付けています。