第59回 小説翻訳の近道①
今回は、小説翻訳の近道について考えてみましょう。
「最終的には小説の翻訳を手がけたい」と憧れている方は多いのではないでしょうか。
プロとして様々な分野の実績を積んだうえで、小説にたどり着く方もいらっしゃいます。最初から小説の翻訳を手がける場合でも、10年くらい勉強をしてきたという方は珍しくないでしょう。
十分な実力を身につけてから仕事をしていくことを考えれば、それくらいの時間をかけてもいいのかもしれません。だけど、「この本は絶対に自分が訳したい!」という原書と出逢ってしまって、「10年も待っていたら、その間に他の人に訳されちゃう!」というケースだってあるでしょう。そんな時、どんな近道があるでしょうか?
ひとつ考えられるのは、「小説をメインにしていない、もしくは手がけていない出版社に持ち込む」という方法です。
小説がメインの出版社だと、お付き合いのある翻訳家がたくさんいます。それではいくら持ち込んで原書に興味を持ってもらえても、「こういう作品なら○○さんに」ということになってしまうでしょう。
小説をメインにしていない、もしくは手がけていない出版社なら、翻訳家の伝手がなく、企画を持ち込んだあなたに翻訳が回ってくると期待できます。ただし、ハードルはあります。
まず、そもそも小説というジャンルを取り扱っていないので却下されてしまうことが考えられます。それを防ぐために、どんな出版社かをよく調べてください。小説はやっていなくても、幅広いジャンルを扱っているところや、何となく面白がって仕事をしている社風が感じられるところなら、編集者さんの関心とうまく重なれば、「じゃあ、翻訳小説もやってみようか」となるかもしれません。できれば、刊行物のどこかで翻訳物を扱っているようなら、翻訳物自体への抵抗感がないのでいいですね。
そして、既存のラインナップとうまく合わせられるかを考えてみてください。たとえば、あなたが見つけた原書が、料理がたくさん登場する本だとします。もし出版社が料理の本に力を入れているようなら、単に「小説」ということを伝えるのではなく、「料理」という切り口からアプローチするのです。そうすることで、扱ってもらえる可能性がかなり高まるでしょう。
「小説をメインにしていない、もしくは手がけていない出版社に持ち込む」方法には、デメリットもあります。編集者さんも小説が専門ではないので、ノウハウがないのです。ベテランの編集者さんが手を入れてくれることで訳文のクオリティがぐんと上がるものですが、こういう細やかな指導は望めないでしょう。訳文のクオリティは自力で上げなければいけません。
そんなデメリットはありますが、試してみるだけの価値はあると思います。
そして、もうひとつの近道は……次回の連載で!
※この連載では、読者の方からのご質問やご相談にお答えしていきます。こちら(私の主宰する日本読書療法学会のお問い合わせ欄になります)からご連絡いただければ、個別にお答えしていくほか、個人情報を出さない形で連載の中でご紹介していきます。リクエストもあわせて受け付けています。