第53回 作家インタビュー~植西聰さん 後編
第52回に引き続き、植西聰さんからお話を伺います。
寺田:テーマはご自身から持ち込むことが多いのでしょうか、それとも編集者さんからの打診が多いのでしょうか。
植西:以前は持ち込みもしていました。面識のない出版社に電話をかけたりしていましたが、最近はないですね。94社も仕事をしていると、もう持ち込む先がないということもありますが、昔に比べて持ち込み企画が通りにくくなったということです。むしろ編集者のほうから企画の打診があったり、企画まではないけど「会いませんか」と言われて会って話しているうちに何か書いてほしいということになったりしますね。すると15本くらい原稿のストックがあるので、そこから選んでもらうんです。
寺田:アドラー心理学や禅、老荘思想など、あらゆるテーマで執筆されていますよね。時代の要請に巧みに応えていらっしゃるようにお見受けしますが、どのように流れを読んでいらっしゃるのでしょうか。
植西:アドラー心理学は出版社を経営していた時代から知っていました。90年代に専門講座で勉強したんです。ユング心理学についてもユング研究会で講座を受講しましたし、老荘思想も昔から親しんでいたんです。
寺田:では、流行ったから学んで身につけたのではなく、もともと知っていたら、ブームになって企画を打診されたのですね。幅広いテーマで執筆をされるためにどのような勉強をしてこられたのでしょうか。また、どのような下準備を日々の生活の中でしておられますか。
植西:心理学や人生論は会社員時代から興味があって勉強していたんです。仏教もそうですね。いまでも時々、講演会に出かけることもあります。あとは、いろんな人としゃべることでしょうか。TVからも情報収集しますよ。ワイドショーでチャンネルを切り替えながら興味のあるテーマを追ったりもします。
寺田:そういうところからも情報収集をされているのですね。読者層は10代から80代くらいまで、とても幅が広いです。作品ごとにそれぞれ対象読者層が設定されているかと思いますが、その読者層にわかりやすく言葉を届けるためにどのようなことに気を配っていらっしゃいますか。
植西:私の本は、どれも「小学校3年生が読んでもわかるように」ということを意識しています。つまり、難しい字や文章を入れず、具体的に書くこと。そして「~しなさい」「~すべき」といった上から目線を避け、あくまでもカウンセリング本として、提案型にしています。また、読者と会話するような「あなた」という言葉を使わないようにしています。以前は使っていたのですが、やめました。読者によって状況は違うので、「自分はそうじゃない」と思う読者もいるからです。また、タイトルも具体的に、カバーデザインも遠くから見てもはっきりわかりやすいように、と気を配っています。
寺田:内容だけでなく、いわばプロデューサー的な視点から、本づくり全体に気を配っていらっしゃるのですね。出版不況と言われるなかで出版を続けておられる秘訣は何でしょうか。
植西:実績があることでしょうか。90年代と比べて、やはり時代が全然違いますから、実績がまったくないと出版しづらくなりました。私の場合は『平常心のコツ』のような「コツ」シリーズが累計50万部近く売れていることなどもあって、「それならうちでも売れるかも」と出版社が思ってくれるのでしょうね。実績がないと、たとえばブログの読者が10万人いるとか、ファンがいることを示せないと今の時代は難しいでしょうね。
寺田:作家の中には映像など他のメディアに進出したり、動画配信をしたりという方もいらっしゃいますが、そういうことは一切なさらずに出版にこだわって活動されていますよね。本を通してしか伝えられないものは何でしょうか。本というメディアについてのお考えをお聞かせください。
植西:雑誌にしろTVにしろSNSにしろ、他のメディアは上辺だけだと思うんです。人生論や心理学を本当に深いレベルで相手に伝えるには、本しかないんですよ。昔に比べて書店数も半減し、本を読まない若い人も増えました。そういう人たちでも興味を持つものをつくっていかないといけないと思うんです。文学青年や文学少女のような文芸書専門の編集者では、普段本を読まない人が読むような人生論的な本はつくれないと思います。
寺田:心を元気にする本をたくさん出版していらっしゃいますよね。「気持ちが弱ったときは植西さんの本を読む」という声をまわりでもよく聞きます。この連載の読者の中には出版翻訳家を目指しながらもうまくいかずに落ち込み気味の方も多いかと思いますが、そんな方へのアドバイスをお願いいたします。
植西:自分なりの分野、「この分野は自分は強い」というのを持つといいのではないでしょうか。たとえば山川紘矢さん・亜希子さん夫妻はスピリチュアル分野の翻訳を多く手がけていますよね。そういうふうに「この分野だったらこの人」というふうになるといいのではないでしょうか。何でも屋だったら、もっと実績が上の人に頼んだほうがいいとなってしまいますから、専門性を持つことが大切です。専門店だと、そこに行くしかないじゃないですか。総合店だったら、規模が大きいほうがいいとなってしまうでしょう。あとは、あきらめないことですね。あきらめないで長くやっていると、自然にものになっていると思いますよ。他の人の意見にあまり左右されずに、マイペースで続けていくことですね。
寺田:ありがとうございます。最後に、新刊とこの連載の読者の方へのおすすめの著作のご紹介をお願いいたします。
植西:『行動力のコツ』が「コツ」シリーズの最新刊として出ています。この連載の読者の方には『心の疲れをとるコツ』や『あなたを取り戻す3日間』、『心が折れそうなとき、そっととなえる魔法の言葉』などをおすすめします。
寺田:このインタビュー記事をきっかけに、お手に取っていただければうれしいですね。本日はありがとうございました。
インタビューの際に、丁寧に各質問への回答メモをご用意いただいていたほか、話題に出そうな資料も色々と揃えてくださっていました。時間をかけてご準備してくださったのだと思います。ベストセラー作家になっても決して驕ることなく、一つひとつのお仕事に誠実に対応していらっしゃるからこそ、長年にわたってご活躍を続けていられるのでしょうね。貴重なお話、ありがとうございました!
※この連載では、読者の方からのご質問やご相談にお答えしていきます。こちら(私の主宰する日本読書療法学会のお問い合わせ欄になります)からご連絡いただければ、個別にお答えしていくほか、個人情報を出さない形で連載の中でご紹介していきます。リクエストもあわせて受け付けています。