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第52回 作家インタビュー~植西聰さん 前編

寺田 真理子

あなたを出版翻訳家にする7つの魔法

今回の連載では、作家の植西聰さんからお話を伺います。文庫版、愛蔵版を含め約70万部の『折れない心をつくるたった1つの習慣』『平常心のコツ』など累計50万部の「コツ」シリーズをはじめ、著書累計は500万部を突破しています。中国や台湾、韓国、ベトナム、タイなど海外でも多数の翻訳書が発売されています。長年にわたりベストセラー作家として活躍を続ける植西さんから、企画に対する考え方や編集者さんとの付き合い方など、教えていただきました。

寺田:本日はよろしくお願いします。植西さんはベストセラー作家として長年ご活躍を続けておられます。大学ご卒業後は資生堂にお勤めでいらっしゃいましたよね。出版業界とは遠い業界のように思われますが、どのような経緯で作家になられたのでしょうか。

植西(以下敬称略):会社員の頃から、心や身体について興味があったので、よく講演を聴きに行っていました。それでいろいろな講演家を知ったので、ひとり30枚ずつ執筆してもらって本を出すということをやったんです。それがきっかけと言えるでしょうね。退職してひとりで出版社を立ち上げ、「脳力開発」シリーズや「成功哲学」シリーズなど何冊かの編集や営業を手がけました。やがて出すものがなくなったので自分で書くようになったんです。自分の会社で自著が10冊くらい出たところで他社から「書いてほしい」と依頼が来ました。

寺田:ご著書を読んで依頼があったわけですか。

植西:それもありますが、当時『マイ・バースデイ』という占いの雑誌に連載をしていたので、その出版社から打診があったんです。結局原稿はそこから出版されなかったんですが、せっかく書いたので他の出版社に持っていったら書籍化が決まりました。最初からうまくいったんです。運がよかったと思っています。当時、90年代半ばは出版業界の売上も2兆円以上で現在の倍の規模でしたし、企画を持ち込んでも通りやすかったんです。

寺田:それからずっと依頼が絶えずに書き続けてこられたんですよね。

植西:33年になりますね。他社から依頼を受けるようになってからは25年です。著作は書き下ろしで360冊、文庫化されたものや翻訳されたもの、リニューアル版を含めると480冊になりました。

寺田:あらためて、すごい数字ですね。一冊の本を出すだけでも本当に大変なことですが、その後出し続けるのも相当にハードルが高いことですよね。出版し続けられる方と一冊で終わる方の違いは何でしょうか。

植西:運もあると思いますよ。一冊目を力のない出版社から出してしまったために売れないこともあります。どこから出すかも大事です。だけど、ダメだと思うとそれで終わってしまいますから、続けることですね。編集者もそれぞれ個性がありますから、ある編集者が「これはダメだ」と言っても、別の編集者は「これはいい」と言うことがあるんです。180度違う。だからあきらめないことです。たとえ一冊目が売れなくても、いい出逢いに恵まれればうまくいきますから。私も、以前にある出版社に企画を持っていったら、編集者に断られたんです。それが、同じ出版社の別の編集者が気に入って、結局企画が通ったんですよ。同じ会社なのに、そんなふうに判断が分かれるものなんです。絶対的な基準はなくて、結局その編集者がやりたいかどうかだけなんです。

寺田:なるほど。では、断られてもあまり気にしないのですか。

植西:全然気にしないですね。他に持っていくだけです。ダメなんだとは全然思わないですよ。だって、たとえば料理の本だったら、料理に興味がある編集者ならやるでしょうし、興味がなければやらないでしょう。恋愛の本なら、恋愛に興味がある編集者はやるし、なければやらない。それだけのことですよ。

寺田:そう考えれば気持ちも楽ですし、落ち込むこともなくなりますよね。うまく興味の重なる編集者さんと出逢えるかどうかですが、これまでにかなりの数の編集者さんとお仕事をされていますよね?

植西:94社、100人以上と仕事をしてきました。

寺田:すごい数字ですね。編集者さんとのお付き合いではどのようなことに気を配っていらっしゃいますか。

植西:本好きな人たちの交流会を主催しているので、そこに呼んで編集者が手がけた本を紹介する機会をつくったりしていますね。あとは、たとえばイラストレーターの展示会があったら誘って一緒に行くとか。仕事につながりそうな出逢いの場をつくるようにしています。他にも、ランチ会やカラオケとかね。それと、私は企画のストックをたくさん持っているんですよ。原稿も書き上がった状態のものが15本くらいあるので、編集者が企画で困っているときにすぐに出せるんです。

寺田:それは編集者さんにとっては心強いですよね。

植西:編集者がいちばん困るのは、約束した日に原稿が出てこないことなんです。だけどそういう作家も結構多いんですよね。私は期日を守りますし、少し早めに原稿を出すようにしています。きちんと約束を守るんです。それに、編集の手間がかからないような、すぐ出せる態勢の原稿を渡すんです。たとえば2ページ見開きだったら行数やページ数をきちんと合わせて出しますから、ほぼそのまま出版できるので、編集者はとても楽と言っています。

寺田:ご自身が編集のお仕事も経験されていて、編集者さんの立場で考えられるからこそできることですよね。編集者さんとしてもありがたいでしょうが、編集者さんの中には思い通りに仕事をしたいという方もいらっしゃるのでは?

植西:私が編集者に依頼するのは誤字や脱字の修正、意味不明な箇所の指摘や事実確認、表記統一などです。文章に大幅に手を入れられることはあまりしてほしくないんです。他の著作との整合性もありますし。作家にも「自分はこう書く」という「自我」タイプと、「編集者にやってほしい」という「お任せ」タイプがいて、編集者にも同様に「自分が思うような本にしたい」という「自我」タイプと「作家に全部書いてもらいたい」という「お任せ」タイプがいるんです。私のように「自我」タイプの作家は、「お任せ」タイプの編集者が合うんです。「お任せ」タイプの作家だったら、「自我」タイプの編集者がいいのでしょうね。「自我」タイプの作家と「自我」タイプの編集者では、ぶつかってしまうんです。

寺田:そういうタイプ分けは考えたことがありませんでしたが、参考になります。どちらのタイプかを見極めておくと、仕事を進めていくうえで役立ってくれそうですね。

 

※この連載では、読者の方からのご質問やご相談にお答えしていきます。こちら(私の主宰する日本読書療法学会のお問い合わせ欄になります)からご連絡いただければ、個別にお答えしていくほか、個人情報を出さない形で連載の中でご紹介していきます。リクエストもあわせて受け付けています。

Written by

記事を書いた人

寺田 真理子

日本読書療法学会会長
パーソンセンタードケア研究会講師
日本メンタルヘルス協会公認心理カウンセラー

長崎県出身。幼少時より南米諸国に滞在。東京大学法学部卒業。
多数の外資系企業での通訳を経て、現在は講演、執筆、翻訳活動。
出版翻訳家として認知症ケアの分野を中心に英語の専門書を多数出版するほか、スペイン語では絵本と小説も手がけている。日本読書療法学会を設立し、国際的に活動中。
ブログ:https://ameblo.jp/teradamariko/


『認知症の介護のために知っておきたい大切なこと~パーソンセンタードケア入門』(Bricolage)
『介護職のための実践!パーソンセンタードケア~認知症ケアの参考書』(筒井書房)
『リーダーのためのパーソンセンタードケア~認知症介護のチームづくり』(CLC)
『私の声が聞こえますか』(雲母書房)
『パーソンセンタードケアで考える認知症ケアの倫理』(クリエイツかもがわ)
『認知症を乗り越えて生きる』(クリエイツかもがわ)
『なにか、わたしにできることは?』(西村書店)
『虹色のコーラス』(西村書店)
『ありがとう 愛を!』(中央法規出版)

『うつの世界にさよならする100冊の本』(SBクリエイティブ)
『日日是幸日』(CLC)
『パーソンセンタードケア講座』(CLC)

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