第51回 英語じゃないと、ダメなの?
今回は、こんなケースを考えてみましょう。
「これは絶対に自分が翻訳したい」と思える原書が見つかったのに、調べてみるとそれは英訳版で、もともとは他の言語で書かれたものだった……こういう場合、翻訳を手がけることはできるでしょうか?
結論からいうと、「出版社の方針次第」です。
以前、素敵な絵本を見つけて、ぜひ翻訳したいと思いました。張り切って試訳をつけて、企画書も用意して、絵本に合った出版社に提案してみたのですが……そこで、実はその絵本がもともとフランス語で書かれていたことがわかったのです。
「うちではオリジナルの言語から翻訳するので、この絵本の場合はフランス語版から翻訳します。だからもしこの企画が通ったとしても、フランス語の翻訳家に依頼するので、あなたには依頼できなくなりますよ」
そう親切に教えていただき、「それなら……」と提案は取り下げたのでした。だけど別の出版社にお持ちしたところ、対応が違いました。
「うちでは基本的にはオリジナルの言語から翻訳しますが、英訳されたものから翻訳することもありますよ」
このように、出版社によって方針が違うのですね。
たとえば、第49回のインタビューでご紹介した夏目大さんの翻訳された『6時27分発の電車に乗って、僕は本を読む』も、もともとフランス語で書かれたものですが、夏目さんは英語版から翻訳されています。
出版社にとっても、英語の翻訳家のほうが数が多いので、豊富な選択肢の中から選べるというメリットがあります。また、翻訳家との関係性もあるでしょう。オリジナルの言語の翻訳家だけれどなじみのない人よりも、どんな仕事をしているかわかっていてお付き合いのある英語の翻訳家のほうが安心して依頼ができますよね。
ですから、たとえ英語以外の言語がオリジナルだったとしても、希望を捨てることはありません。まずは、持ち込み先の出版社の方針を確認しましょう。英語版からでも構わないというところを探してみてください。そして「この人が翻訳するのがこの内容にふさわしい」と思ってもらえるようにアプローチしていきましょう。
※この連載では、読者の方からのご質問やご相談にお答えしていきます。こちら(私の主宰する日本読書療法学会のお問い合わせ欄になります)からご連絡いただければ、個別にお答えしていくほか、個人情報を出さない形で連載の中でご紹介していきます。リクエストもあわせて受け付けています。