第44回 契約書がないって本当?
今回の連載では、お寄せいただいたこちらのご質問にお答えします。
「出版翻訳には契約書がないって本当ですか?」
はい、本当です。
といっても、まったくないわけではありません。きちんとした契約書が存在します。ただ……契約書が出てくるのが、最後の最後なのです。
翻訳を終え、編集や校正も終え、装幀も決まり、諸々のプロセスを終えてようやく見本が完成し、あとは配本を待つばかり……という段階になって「それでは契約書を」となるのです。
その間、短くても数か月、長ければ数年です。ビジネスの世界では、仕事が始まる前に契約書を作成するのが当然という感覚があります。その「当然あってしかるべきもの」がないままこれだけの期間を過ごすのは、とても不安ですよね。はじめてだと驚くでしょうし、疑心暗鬼になると思います。
「もしかして詐欺なのでは?」
などと思ってしまうかもしれません。一冊の本を翻訳するのは相当な労力です。それを口約束だけでやるなんて、大丈夫なのかと思ってしまいますよね。もちろん、事前に各種の条件はメールや口頭で確認しておきますし、仕事を進めていく中で担当編集者さんとやり取りを続けていくので、反故にされてしまうことはまずありません。
発売直前の状況で、条件が多少変わってしまうことはたまにあります。業界の情勢や経営判断などでやむを得ない事情の場合が大半ですし、納得がいかなければもちろん交渉はできます。
原書探しから始まる長い長い旅を終えて、ようやく出版できると思ったら契約書がない。そこで大きな不安を覚えてしまいそうですが、この業界特有の事情をはじめから知っておけば、余計な不安に駆られることなく翻訳に専念できるでしょう。
※この連載では、読者の方からのご質問やご相談にお答えしていきます。こちら(私の主宰する日本読書療法学会のお問い合わせ欄になります)からご連絡いただければ、個別にお答えしていくほか、個人情報を出さない形で連載の中でご紹介していきます。リクエストもあわせて受け付けています。