第43回 大手出版社のほうがいいの?
今回の連載では、お寄せいただいたこちらのご質問にお答えします。
「やっぱり大手出版社から出版したほうがいいのでしょうか?」
大手出版社ならではのメリットはあります。最大のメリットは、「よほどのことがない限り倒産しないこと」ではないでしょうか。
最近は「ひとり出版社」がブームになっています。出版社はひとりでもできるものですし、名の知れた出版社や老舗出版社の中にも、少人数で経営しているところが多くあります。会社の規模が小さいと、倒産してしまうこともあるのです。実際、『認知症の介護のために知っておきたい大切なこと~パーソンセンタードケア入門』はロングセラーになっていたものの、出版社が倒産したために絶版になってしまいました。その後別の出版社から復刊しましたが、倒産による絶版はショックが大きいですし、二度と経験したくないものです……(苦笑)。
では、大手ならば絶版にならないかといえばそうでもなく、「大手だからこそ絶版にされてしまう」こともあります。本自体の価値よりも、販売部数などの数字だけで判断されてしまうのです。業界では評判になっていて内容もいい本が絶版にされてしまうのを見ると、本当にもったいないと思います。小さな出版社だったら、同じ販売部数でも「稼ぎ頭」として大事に版を重ねてもらい、結果的に大きく販売部数を伸ばせたかもしれないのです。
大手の場合、扱う作品もやはり多くなります。同時期に刊行する作品が多数あると、会社としてもすべて同じように力を入れられるわけではありません。大手ならではの営業力というメリットがあっても、国内の人気作家の新刊や大ヒットマンガの最新刊に営業がかかりきりで、あなたの手がけた翻訳書はほとんど目を向けてもらえないことにもなりかねません。編集部門と営業部門の連携もあります。編集者さんは編集能力が高くていい本に仕上げるのは得意でも、営業との仲が悪いために熱心に売ってもらえないことも……。大手ならではのデメリットもやはりあるのです。
その点、中小規模であれば刊行点数が少ないので、同時期に刊行する作品は他になく、新刊はあなたの作品だけかもしれません。すると全社的に力を入れて営業してくれることになります。編集と営業の関係も密なので、連携もとりやすいでしょう。
読者の側からすれば、大手出版社かどうかはあまり判断材料にならないのではないでしょうか。むしろ、通な読者ほど「ここの出版社のノンフィクションシリーズは充実している」「ここの出版社の企画は面白い」とよくチェックしているものです。原書によっては、小粒でもきらりと光る出版社から出したほうが、望む読者層にアプローチできるのではないでしょうか。
また、大手の場合は決裁のプロセスが何重にもなるため、せっかく編集者さんが気に入っても企画が通らないことがあります。その点、中小であれば編集者さんの権限が大きいので、すぐに話を進められます。
単純に「大手出版社ならいい」という話ではないのですね。メリット、デメリットを考えながらあなたの選んだ原書にとっての最適解を見つけてあげてください。
人によっては自己承認欲求から大手出版社を求めている場合もあるでしょう。誰もが知っている出版社から本を出すことで「すごい」と言われたいのかもしれません。そういう欲求を持つことも、それを満たすために動くことも否定はしません。ただ、「あなたの満足」イコール「あなたの選んだ原書にとっての最適解」とは限らないのです。そのことはぜひ心に留めてくださいね。
※この連載では、読者の方からのご質問やご相談にお答えしていきます。こちら(私の主宰する日本読書療法学会のお問い合わせ欄になります)からご連絡いただければ、個別にお答えしていくほか、個人情報を出さない形で連載の中でご紹介していきます。リクエストもあわせて受け付けています。