第35回 他社への持ち込みのタイミング
今回の連載では、お寄せいただいたご質問にお答えします。実際に企画を持ち込んでみた方からのご質問です。
「数社に企画持ち込みをするとして、どれぐらい連絡がないまま間があいたら次の出版社に持ち込めるのでしょうか。出版業界の慣習というか、マナーがよくわからないのですが……」
目安がないので難しいところですが、まずは最初に持ち込んだ出版社の編集者さんの反応次第です。すごく乗り気になってくれて、すぐに動き出す場合もあるでしょう。それでも、大手になるほど意思決定のプロセスも増えるので、最終的に決定するまで時間がかかるものです。1か月ほど経っても連絡がないようなら、自分から連絡をして進捗状況を確認してみてください。
最初の時点で編集者さんがそれほど乗り気でなかった場合も、まずは1か月ほど経った時点で「先日の企画、ご検討いただけましたか?」とリマインドしてみましょう。そこで特に動きがなく、編集者さんも関心がないようなら、次の出版社に持ち込んでもいいと思います。
ただ、「いつどう動くかわからない」というのが実際のところです。たとえば、こんなケースがあります。『未来をつくる図書館』という本のイベントに先月参加しました。通常、本のイベントがあるとすれば、それは出版記念イベントです。ところが本書の発売は2003年。なんと16年も前なのです! それが「ニューヨーク公共図書館」という映画が今年5月に公開されて話題になり、本書も「映画関連本」としてにわかに注目を集めました。そしてロングセラー記念にイベントが開催されたのです。
本書の発売当時、まさか16年後にこういう形で注目を集めるとは、誰も想像もしなかったでしょう。こういうふうに風が吹くことがあるのです。だからあなたの企画も、いつどこで風が吹いて動き出すかはわからないのです。
「自分が出版翻訳家として早くデビューしたい」と思うと、あせりが出てしまいますし、待つ時間も長く感じられて、「早く次の出版社に持っていかなきゃ」という気持ちになってしまいがちです。
そうではなく、「この本をどういう形で世の中に出してあげるのがいちばんいいんだろう?」と考えてみてください。そうすると「自分が、自分が」という思いが消えるので、ゆったり構えられるはずです。
実際、本は自分に合ったタイミングで世の中に出てくるように感じます。拙訳書『なにか、わたしにできることは?』も、出版までに3年かかり、発売されたのは2011年……ちょうど震災の年でした。自分がいちばん必要とされているタイミングを、本が自ら選んだようでした。
あなたが出版翻訳したい本が世の中に求められるものであるならば、それはちゃんと出るべくして世に出るはずです。それを信じて、あせらず、最善と思うことをしてあげましょう。
※この連載では、読者の方からのご質問やご相談にお答えしていきます。こちら(私の主宰する日本読書療法学会のお問い合わせ欄になります)からご連絡いただければ、個別にお答えしていくほか、個人情報を出さない形で連載の中でご紹介していきます。リクエストもあわせて受け付けています。