第32回 編集者さんインタビュー~北川郁子さん(七七舎)後編
第31回に続き、編集者の北川郁子さんのインタビューをお届けします。
寺田:人気作家のベストセラーにすぐ買い手がついてしまう文芸の分野などに比べて、社会福祉などの分野は原書も見つけやすいのでは?
北川:見つけやすいと思います。翻訳が必要な原書も多いですし。ただ、翻訳書は金銭面でなかなかハードルが高いのです。
寺田:それは原書の版元への支払いがあるからですか?
北川:そうです。翻訳書の場合、売上が伸びるほど原書の版元への印税率が上がるものが多かったり、印税が先払いだったりというのが一般的ではないかと思います。
寺田:出版翻訳はすでに出版物としての価値が認められている点で有利なのかと思いますが、専門書の場合、そういう理由で敬遠されてしまうこともあるのですよね。出版翻訳可能かどうかを判断する際、どういう点を重視していますか?
北川:日本の現状に役に立つか、日本の読者に受け入れられるかどうかです。制度的な面など各国でことなることも多いので、どうしても訳注も多く必要になってきます。
寺田:全体的には役立つものでも、一部の内容が日本の実情に即してないこともありますよね?
北川:それはありますね。たとえば20年くらい前に、イギリスのソーシャルワークのテキストにはAIDSやLGBTに関する事例がすでにありました。いまは日本の社会状況も変わってきましたが、当時は一章丸ごと割愛したこともあります。そうやって日本の実情に合わせるように編集として対応していますね。もちろん、翻訳者や原著者と協議の上ですが。
寺田:編集プロダクションならではの強みはありますか?
北川:翻訳家と一緒に組んで出版社に売り込めるところですね。専門分野の強みがあるので、「こういう企画なら○○社が」みたいな勘でしょうか。実際に、版元の編集者が関心を示してくれても、企画がなかなか通らないという実情もあります。大手になるほどその壁は高くなりますね。
寺田:たしかに、そういう実情は翻訳家が把握するには難しいですものね。一人で企画を練るのにも限界があるので、編集プロダクションでアドバイスが得られるのは心強いです。
北川:編集プロダクションもそれぞれ得意分野があります。うちは社会福祉や介護ですが、ビジネス書や児童書専門の編プロなど、そういうところでアドバイスをもらうのもいいと思います。
寺田:出版社にいきなり持ち込むよりも、ハードルが下がるかもしれませんね。
北川さん、ありがとうございました!
北川さんとは長いお付き合いになるので意識していませんでしたが、持ち込み先や売り方をご相談し、編プロの編集者さんならではのアドバイスをいただいてきました。『パーソンセンタードケアで考える認知症ケアの倫理』も『リーダーのためのパーソンセンタードケア~認知症介護のチームづくり』も、そのようにしてつくってきた本です。
このように相性のいい編プロの編集者さんを見つけるのも、出版翻訳家を目指す方にとっていい方法かもしれません。特に、その業界に詳しい編集者さんだと、業界誌への寄稿の機会をいただくなど、翻訳を軸にその分野での活動を展開していくことにもつながるのではないでしょうか。
※七七舎が編集を手がけた本の詳細は公式サイトをご参照ください。
※この連載では、読者の方からのご質問やご相談にお答えしていきます。こちら(私の主宰する日本読書療法学会のお問い合わせ欄になります)からご連絡いただければ、個別にお答えしていくほか、個人情報を出さない形で連載の中でご紹介していきます。リクエストもあわせて受け付けています。