第28回 裏技~文脈をつくる
そのままでは出版翻訳が難しい場合の裏技は、「文脈をつくる」ことです。
具体例を見てみましょう。私が昨年出版翻訳した『リーダーのためのパーソンセンタードケア~認知症介護のチームづくり』という本があります。
本書はカバーイラストや判型、中身の体裁、タイトルなど、拙訳書『認知症の介護のために知っておきたい大切なこと~パーソンセンタードケア入門』のシリーズになっています。
実際には、原書はまったく別の著者ですし、シリーズにもなっていません。だけど『認知症の介護のために知っておきたい大切なこと~パーソンセンタードケア入門』が10年以上にわたるロングセラーとしてすでに読者がついているので、シリーズにすることで、潜在的な読者に届けることができると考えたのです。
こうすることで、書店の棚でも並べて置いてくれますし、認知してもらう機会が増えます。
また、日本での出版業界の動きにうまく合わせる方法もあります。たとえば“Reasons to Stay Alive”という本は、メンタルヘルス上の問題を抱えた方が家族や友人に自分のことを理解してもらう手段としてよく活用されているそうです。
本書は日本語版では 『#生きていく理由~うつヌケの道を、見つけよう』というタイトルで出版されています。そのまま出版翻訳しただけでは、日本の類書に埋没してしまったかもしれません。だけどメンタルヘルスの分野でヒットした『うつヌケ』という本の流れに位置づけることで、日本の読者に認知されやすくなっているのです。
このように既存の本の中でどういう位置づけにあるのかを捉え、文脈をつくってあげることで、読者層が見えてきて、出版翻訳できるようになるのです。
第16回の「監修と類書」にあるように、類書を探すときに、あなたが出版翻訳したい原書の文脈まで考えてみるといいでしょう。そこまで踏み込んだ提案ができれば、出版翻訳できる可能性も高まりますよ。
※この連載では、読者の方からのご質問やご相談にお答えしていきます。こちら(私の主宰する日本読書療法学会のお問い合わせ欄になります)からご連絡いただければ、個別にお答えしていくほか、個人情報を出さない形で連載の中でご紹介していきます。リクエストもあわせて受け付けています。