第27回 断られた企画とその理由
今回の連載からは、お寄せいただいたご質問やご相談にお答えしていきます。
まずは、「これまでに断られた企画とその理由を教えてください」というご質問です。私も、これまでに断られたことは何度もありますし、企画書も試訳もあるのに出版に至っていない本も何冊もあります。
第22回の連載「断られたら……」でお伝えしたように、断られてもそれはマッチングの問題に過ぎないので、他を当たればいいだけのことです。だけど中には、何社か当たってみて、「これはやはり難しいかな」と感じるものもあります。理由は大きくいえば「日本に読者がいない」ということですが、3つのパターンに分けて説明しましょう。
第1のパターンは、「日本の読者の好みに合わない」というもの。これは絵本の場合ですが、私の好む絵柄はシュールリアリズム風のため、日本の読者から見ると「怖い」と感じるようです(苦笑)。こういう場合に絵を変えて出版するケースもありますが、そもそも絵のほうに惹かれて出版翻訳したいと考えたので、それでは意味がなくなってしまいます。
第9回の連載で「出版翻訳する価値があるかを見極める」ことをお伝えしましたが、自分自身でもそのプロセスをあらためてやってみて、「これはテーマ性があるから、タイミングが来るまで温めておこう」と残したものと、「これは出版翻訳にこだわらなくていいかな」と手放したものがあります。後者は、「自分が読者として眺めれば十分」と納得がいったものや、「このアイデアは自分の他の執筆活動で活かそう」と違う形で自分の欲求を昇華できるものです。
出版翻訳家の中には自分で執筆を始める方も多いですが、もしかしたら「こういうものを書きたい」という欲求があってその原書を選んでいるのかもしれませんね。どうして出版翻訳したいのかを考えてみることで、自分の中に眠る欲求に気づくきっかけになるかもしれません。
「日本に読者がいない」第2のパターンは、「原著者の認知度の違い」によるものです。原書の本国であれば、その著者の本というだけでベストセラーになるのに、日本では知られていない場合です。私も、大好きなジャーナリストの本の企画を数社に持ち込みましたが、そのジャーナリストを知っている人自体が日本ではかなり限られてしまうという理由で断られています。
ただ、これに関してはスタイルを変えるという手段があります。たとえば、原書は自伝だけれど日本で出版する時にはビジネス書として著者のキャリアに焦点を当てた構成にすることもできます。また、著者が何かのきっかけで日本のメディアで注目され、企画が通りやすい環境になるかもしれません。まだ検討の余地があるので、あきらめずに温めています。
「日本に読者がいない」第3のパターンは、「内容が専門的過ぎる」場合です。専門書として出版するにしても、それでは研究者など限られた読者にしか読まれないことになります。
実は、私がいま翻訳を手がけている原書も、このタイプです。イギリスの研究書にありがちなのですが、事例はとても身近なのに、考察部分が哲学的過ぎて読者を選んでしまうのです。だけどもっと広く読んでもらえる可能性があるはず。そこで裏技を使うことを考えています。
その裏技とは……? 次回の連載でお伝えしますね。
※この連載では、読者の方からのご質問やご相談にお答えしていきます。こちら(私の主宰する日本読書療法学会のお問い合わせ欄になります)からご連絡いただければ、個別にお答えしていくほか、個人情報を出さない形で連載の中でご紹介していきます。