第16回 監修と類書
企画書のつくり方も、いよいよ大詰めです。⑦の訳者プロフィールについては、追って詳しく説明します。先に、⑧監修と⑨類書を見ていきましょう。
まずは⑧監修です。監修者をつけることも考えてみましょう。監修者の役割は、翻訳の上で訳者から出てくる質問に答えたり、専門知識を補強したりすることです。語学という観点から翻訳をチェックする「監訳」ではなく、内容についての監修ですので、その分野の専門家にお願いすることになります。
初めての翻訳書となるとわからないことも多々ありますから、そういうときに質問できる存在がいるのは心強いものです。編集者さんにとっても監修者の存在が安心材料になりますし、監修者が著名な先生であれば、読者にも安心感を持って手に取ってもらえるでしょう。心当たりのある方がいれば、監修者として名前をあげておくことも、企画を通しやすくするひとつの手段です。
次は⑨類書です。あなたが出版翻訳したい本と類似の本がどれだけあるかを検討します。「類書がある」ということには、二つの側面があります。まずひとつは、それだけ市場があるということ。類書が出版されているのは、読者がいる証拠です。だけどもうひとつの側面として、すでに出尽くしてしまっていることにもなります。さらに出す意義があるのか、そこが問われるのです。
まずは、市場が存在することを示す意味で、いくつか類書をあげてみましょう。そのうえで、新しく出す意義を示すために、類書と差別化をしてほしいのです。たとえば、これまでの本は専門職に向けたものだったけれど、今回は広く一般に読んでもらえる本であるとか、これまでの本はすでに情報が古くなっているけれど今度の本は最新情報を盛り込んでいる、という具合です。そうやって類書と差別化することで、出す意義を訴えていきましょう。
ここで少し補足をしておきます。③書籍概要で、目次とサンプル原稿は別途お渡しするように用意するとお伝えしました。目次は補足資料として企画書の3枚目に収まるならそれでよいのですが、量が多すぎる場合は別の資料としてまとめておきましょう。目次の項目名についても、タイトル案同様、興味を惹くように工夫してみてください。
では、サンプル原稿はどれくらい用意すればいいのでしょうか? もし絵本のように薄手のものであれば、1冊全部用意しておきましょう。原書の文章の上に訳文を貼りつけて、日本語の絵本のように読めるようにしておくと、仕上がりのイメージも湧きやすいでしょう。
だけど分量が多い場合は、1章分、10ページから20ページ程度あればよいでしょう。というのは、翻訳のトーンが大幅に変わることもありうるからです。どういう読者層を想定するか、あなたの考えと編集者さんの考えが違うかもしれません。また、あなたは「である」調で訳そうとしていたのが、編集者さんから「ですます」調で、もっとやわらかいトーンで訳してほしいと求められるかもしれません。すべて訳してあると、手を入れるのが大変になってしまいますので、1章分あれば十分でしょう。
中には、翻訳のペースが遅いので1章分しか手元にないと不安だという方もいるかもしれません。その場合に、企画書を持ち込む一方で翻訳を進めていくのは構いません。また、ある程度まとまった分量をお見せすることで熱意を見せることはできるでしょう。もし、実績もないし、翻訳を任せてもらえるか自信が持てないというのであれば、それこそ1冊全部訳して持ち込むというのも、アピールにはなるでしょう。