第13回 原書名とタイトル案
企画書の具体的な項目を、これから一つひとつ見ていきましょう。
まずは①原書名と②タイトル案です。私が翻訳を手がけた『パーソンセンタードケアで考える認知症ケアの倫理』の企画書では、次のようになっています。
①原書名
Ethical Issues in Dementia Care(認知症ケアにおける倫理的問題)
②タイトル案
認知症の難しい問題を考えるために知っておきたい大切なこと~パーソンセンタードケアと倫理~
原書名の後に括弧内で直訳のタイトルを入れていますが、これとは別にタイトル案をつけています。直訳の「認知症ケアにおける倫理的問題」では硬すぎるからです。対象読者が研究者ならいいのですが、私はもっと広く介護に関わる方々に読んでもらいたいと思っていました。硬いタイトルでは「難しそう」と敬遠されてしまうかもしれません。
そこでタイトル案として「認知症の難しい問題を考えるために知っておきたい大切なこと~パーソンセンタードケアと倫理~」をあげています。すでに出版していた翻訳書のタイトルが『認知症の介護のために知っておきたい大切なこと~パーソンセンタードケア入門』でしたので、関連する内容として読者に訴えられると考えたのです。
また、私がパーソンセンタードケアという認知症ケアの考え方を専門にしているため、この言葉を打ち出しています。これは、「本をその文脈に位置づける」ことでもあります。多くの本があるなかで、どんな部類の本なのかをわかりやすくして日本の読者に伝える工夫が、すでにタイトルのところでも始まっているのです。
最終的には、『パーソンセンタードケアで考える認知症ケアの倫理』と、「パーソンセンタードケア」の言葉を活かす形で決まりました。
タイトル案の考え方として、ビジネス書であれば、その分野でよく検索される言葉を盛り込む方法もあります。オンライン書店で本を購入する方も多いので、検索ワードからたどり着けるようにしておくのです。
小説など文芸の場合、原書のタイトルと日本語版のタイトルがまったく違うこともあります。翻訳をするなかでタイトルによさそうな言葉をメモしておいて、それを提案するのもいいでしょう。
たとえば、私の手がけた『虹色のコーラス』というスペインの小説は、原書のタイトルを直訳すると「コリニョンさんの小さなコーラス」です。作品中では子どもたちの「虹のコーラス」がたびたび登場しますので、このコーラスの名前をとり、さらに強調する意味で「虹色」としています。「コリニョンさんの小さなコーラス」だと翻訳文学を好きな方は興味を持ってくれるかもしれませんが、読者層は狭かったかもしれません。「虹色のコーラス」とすることで、より多くの読者に訴求できたのではと思います。このように作品の中の印象深い単語をタイトル案に使うのもいいでしょう。
編集者さんの興味を引くような、読者に「読んでみたい」と思わせるようなタイトルをぜひ見つけてみてください。