第10回 7つの魔法③~版権を押さえる
自分が手がけたい原書が見つかり、出版翻訳する価値があると思えたら、実際の出版に向けて動いていきましょう。
ときには「すごくいい原書を見つけて、手がけたいと思ったら、すでに出版翻訳されていた」ということもあります。そもそもの確認を忘れずに!正式には原書の版元に問い合わせることになりますが、手軽に確認するには、Amazonなどのオンライン書店でタイトルを検索しましょう。すでに出版翻訳されていれば、日本語版も検索結果に表示されるはずです。
幸いにまだ手つかずだった場合、3つ目の魔法を使いましょう。原書の「版権を押さえる」のです。
正式な版権交渉は、個人が連絡してもまずとりあってもらえません。日本で出版社を見つけて、その出版社からエージェントを通して原書の出版社に交渉してもらうのが基本です。
ただし、口約束でも、「あなたに翻訳を頼みます」という言葉を取りつけることは可能ですし、そうしておくのがいいでしょう。というのは、日本の出版社が版権を取得しても、あなたにその翻訳の仕事が回ってくるとは限らないからです。たとえば、「この手の本はいつも○○さんという翻訳家に頼んでいるので、あなたにはお願いしません」ということになるかもしれません。
せっかく苦労して見つけた、思い入れのある原書。それを日本で出版できそうなところまで来たのに、自分で翻訳が手がけられない……それはとても悲しいことだと思います。そうならないために、たとえ口約束でも、版権を押さえておきましょう。
そのための方法のひとつが、原書の出版社に交渉することです。私も実際、『なにか、わたしにできることは?』の原書を見つけた際、出版社に交渉しました。ブックフェアの会場で、原書の出版社の方がその場にいらしたので、「この原書がとても気に入ったので出版翻訳したいと思います。日本で出版してくれるところを探してきますので、見つかったら私に翻訳させてください」と申し出たのです。
けれども出版社を見つけるのは容易ではなく、かなり時間がかかってしまいました。翌年に同じブックフェアが開催された際、まだ出版社は見つかっていませんでした。そこで担当者に、「私はあれからずっと日本で出版社を探していますが、まだ見つかっていません。でも必ず見つけますから、待っていてください。そして私に翻訳させてください。他のところに話を持っていかないでください」とお願いしたのです。
出版翻訳が実現するまでには結局3年かかりましたが、自分で見つけた思い入れのある原書を手がけることができ、交渉した甲斐がありました。
どれだけ融通をきかせてくれるかは出版社次第ですが、自分の熱意を見せることです。原書の出版社の方に直接会えなくても、メールなどで「これを翻訳したい」と伝えておくことには意味があると思います。自分がいかにその原書に惚れ込んでいるかプレゼンをして、それを動画で送ることだってできるでしょう。たとえすぐに話が動かなくても、タイミングが来たときに、「そういえば、こんなアピールをしてきた人がいたな」と思い出してもらえるはずですよ。考えられる手を打っていきましょう。