第6回 7つの魔法①~分野を絞る
いよいよこれから、あなたを出版翻訳家にする7つの魔法をお伝えします。
まず、1つ目の魔法は「分野を絞る」です。あなたの手がけたい翻訳の分野を絞りましょう。
「え? ちょっと待って! 魔法ってそんな、地味なこと?」と思うかもしれません。そう、地味なんです! だけど一見華やかに見える物事の裏側にあるのは、とても地味で地道なこと。それをコツコツ続けていけたとき、はじめて魔法がかかるのです。
「もっと楽で手っ取り早いことはないの?」という方のために、楽で手っ取り早いことをひとつだけお教えします。それは、「楽で手っ取り早いこと」を求める、あなたのその考え方を変えることです!
自分の勉強がうまく進まないと、他の人は何か特別な方法を知っているんじゃないかと疑心暗鬼になってしまいますよね。そしてその幻の方法を求めて情報に溺れ、勉強は何も進まないまま……。楽な方法や手っ取り早い方法を探すために時間を費やすよりも、「ちゃんと一つひとつ勉強していくしかないんだな」とある意味「あきらめる」ほうが、早くスタート地点に立てるのです。
分野を絞ることは、第3回で考えていただいた「あなたは、どんな出版翻訳家になりたいの?」という質問の答えにも通じるものです。実用書を手がけたいのか、専門書なのか、それとも小説なのか。小説の中でもYA(ヤングアダルト)向けなのか、ミステリーなのか、純文学なのか……と具体化していってください。そこがはっきりすれば、勉強の進め方も見えてきます。
特定の分野を続けることで、「この分野ならこの人」と認知され、仕事が来るようになります。また、得意分野をもつことは、自信につながります。さらに、その分野を翻訳して学んでいく過程で、専門家といえる知識を身につけることができます。それを自ら発信して、仕事の幅を広げることもできるでしょう。それに、ひとつの分野を深める経験は、他の分野にも応用がきくのです。
それでは、分野を絞らないとどうなるでしょう? あえて分野を絞らず、依頼された仕事をすべて受けるスタンスもあるでしょう。たしかに、頼むほうからすれば、「この人に頼めば断られない」というのはありがたいですよね。断らないから仕事が次々に来るという側面はありますし、量をこなす中で実力もつけていけます。
ただ、このやり方では、手がける分野も多種多様になるため、「この分野ならこの人」と認知されることにはつながりません。「都合のいい人」にはなれても、「ぜひお願いしたい人」にはなれないのです。また、専門分野がないために初歩レベルの仕事から脱皮できないかもしれません。
最近はAIの進歩が目覚ましく、これからも加速していくでしょう。機械に置き換えられない自分の仕事は何なのか、考えていかなければいけません。分野を絞らずにあれもこれも手がけると、その都度勉強が必要なことが大量にあり、広く浅くになってしまいます。やはり、自分がこれと思う分野を絞って深めていくことが、特にこれからの時代は大事になるでしょう。
では、どうやって分野を絞ればいいのか、次回の連載でお伝えします。