第4回 翻訳学校には通ったほうがいいの?
出版翻訳家になる夢をかなえるための、入り口はいったいどこにあるのでしょう?
多くの人が考えるのが、翻訳学校に通うことです。では、翻訳学校には通ったほうがいいのでしょうか?
結論からいえば、どちらでもいいと思います。出版翻訳家の中には、通っていた人もいれば、通わなかった人もいます。私自身は、翻訳学校に通ったことはありません。入り口はむしろ、思わぬところにあったというのが実感です。
私が最初の翻訳書を手がけたきっかけは、一人の女性に会いに行ったことでした。それは認知症当事者として発信を続けるクリスティーン・ブライデンさん。彼女の著作に感銘を受け、「ぜひこの人に会いたい!」と思ったのです。
来日講演があると知り、主催者に連絡をとりました。当日のお手伝いを申し出て、その代わりにクリスティーンさんに会わせてほしいとお願いしたのです。実際にお会いでき、喜んだのもつかの間。なんと、クリスティーンさんが帰国直前に転倒してしまいます。急遽、入院やリハビリの通訳に通うことになりました。
この通訳がきっかけで、退院・帰国後の打ち上げに主催者が声をかけてくれました。その席で「認知症ケアに興味があるので、翻訳の仕事があったら声をかけてください」とお願いしたところ、「翻訳したい本があるけど、忙しくて手が回らないっていう大学の先生がいるよ」と紹介してもらえたのです。それが『認知症の介護のために知っておきたい大切なこと~パーソンセンタードケア入門』という最初の翻訳書の出版につながりました。
それまでも本に助けられてきた人生だったので、いつか本を出してみたいという漠然とした憧れはありました。だけどどうやって出せるのか想像もつかないし、遠くの夢に過ぎなかったのです。それが、まったく思いがけないところから実現することになりました。
頭で考えると入り口は限られてしまいがちですが、実際にはこんなふうに思わぬところから、それもすごく近道で、前途が開けることがあるのです。この可能性をぜひ心に留めておいてくださいね。
そのうえで、「学校に通うこと」について考えてみましょう。
私自身は翻訳学校には通っていませんが、以前は通訳でしたので、通訳学校に通ったことがあります。その経験からいえるのは、「学校」と「仕事」は別物だということです。
もちろん、学校では必要な基礎知識やスキルを教えてくれますし、先生も現場での経験が豊富ですから、実際に学べることは多くあります。けれども学校はあくまでも学校。どうやって実際に仕事をとっていくかはまた別に自分で考えなければいけません。それに、現場で求められる臨機応変な対応力は、学校では学べないのです。
「学校に通うこと」自体が目的化してしまう人もいます。学校に通うことは、あくまでも出版翻訳家になるための手段のはず。それなのに、そこに通うことや、そこで進級すること自体が目的になってしまう。気づけば学校の友達に会うためだけに通っていたりして……本来の目的を見失ってしまうのです。
そして、学校に通うことには、もうひとつ落とし穴があります。
その落とし穴について、次回の連載でお伝えします。