第3回 憧れを力に~どんな出版翻訳家になりたいの?
どうして出版翻訳家になりたいのか、自分なりの理由が見つかりましたか?
そこで、もうひとつ質問です。
「あなたは、どんな出版翻訳家になりたいの?」
この質問に答えることは、「出版翻訳家」という言葉であなたが思い描くイメージを明確にすることでもあります。
「出版翻訳家」とひと言でいっても、その在り方は様々です。古典的な文学作品を長年かけて完成させる人、海外で話題の小説家の新作を次々に日本に紹介する人、注目される実業家の自己啓発書を手がける人、スポーツや音楽など特定の分野の専門書を訳す人、日本でも人気の児童書を手がける人……。あなたが思い描く「出版翻訳家」はどんな人でしょう?
「出版翻訳家」という仕事との関わり方も、また多様です。毎日自宅で朝から晩までひたすら翻訳し続ける働き方もあれば、大学で文学を教えながら翻訳を続ける、翻訳している分野に関する執筆も手がける、好きな作家の本を翻訳しながら来日の際に通訳も務める、という具合に……。
私の場合は、認知症ケアの分野での出版翻訳を機に、その内容について全国各地で講演をしたり、執筆をしたりと活動の幅が広がりました。出版翻訳をすることで、それを軸にキャリア展開の可能性は大きく広がります。「本を出していること」で生まれる信頼は、やはり大きいのです。
もちろん、「講演なんて人前で話すのはいやだし、家で翻訳だけしていたい」という人もいるでしょう。だけど「自分の可能性を試してみたい」という人には、きっと貴重なチャンスを与えてくれます。
「これが正解」というものがあるわけではありません。どんな出版翻訳家になって、どういうふうにその仕事と関わっていくのか。あなたにとって、いちばんしっくりくるスタイルを選べばいいのです。
もしかしたら、いまは、一冊の本を出すことまでしか考えられないかもしれません。それすら遠い夢のように思えるかもしれません。だけどその一冊を出したとき、確実にあなたの世界は広がります。せっかくなら、その先のキャリアも楽しみながら思い描いてみてください。出版翻訳家という仕事を通して、あなたという素材をどのように世の中に提供していくのか、ワクワクと想像してみてほしいのです。
そして、なりたいイメージを明確にしておくこと。「勉強しているのにうまくいかない」と思い悩む時間は、かえってあなたを夢から遠ざけてしまいます。だからその時間は、うれしい未来を鮮やかに思い描くことに使いましょう。憧れを強く持つほうが、きっと早く夢に近づけるはずですよ。
次回は、その夢の入り口を一緒に探していきましょう。