第七回 法律関連内容の文書英訳
こんにちは!塾長のソーキンです。
実践編第七回では、個人情報保護に関する公表事項の英訳に挑戦して頂きます。個人情報について、誰が保管し、どういった目的で使用しているのか、を明確にすることは、データ通信があたり前になった現代、特に多くの情報を扱う企業では最重要事項ですね。英語ではどう表現するのでしょう? 今回も読者さんの訳例をもとに解説を加えてみましたので、是非ご一読ください。きっと役に立つ情報があるはずです。
【前回宿題−日本語原文】
「個人情報の保護に関する法律」に基づく公表事項
1.個人情報の利用目的
当社がお客様ご本人から直接書面に記載された個人情報を取得する場合は、その都度、利用目的を明示させていただきます。
2.個人情報の第三者提供について
当社はお客様より取得させていただいた個人情報を適切に管理し、あらかじめお客様の同意を得ることなく第三者に提供することはありません。但し、次の場合は除きます。
・法令に基づく場合
・人の生命、身体又は財産の保護のために必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難であるとき
・公衆衛生の向上又は児童の健全な育成の推進のために特に必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難であるとき
3.開示等の求めに応じる手続きについて
保有個人データのご本人からの開示・変更等・利用停止等の求めに対応させて頂いております。
開示について
ご本人のお申し出により開示いたします。
但し、以下の場合は開示することができません。
本人や第三者の権利利益を害するおそれがある場合
個人情報取扱事業者の業務の適正な遂行に著しく支障を及ぼすおそれがある場合
他の法令に違反する場合
【読者英訳】
Announcement1Pursuant to the Act on the Protection of Personal Information
1.Purpose of use of personal information
We will specify the purpose of use whenever we collect personal information directly from customers3 in writing.
2.Provision of personal information to third parties
We appropriately manage2 personal information obtained from the customer3, and will not provide such information to third parties without prior consent from the customer, except for the following cases:
– Cases in which the provision of personal information is based on laws
– Cases in which the provision of personal information is necessary for the protection of the life, body, or property of an individual and in which it is difficult to obtain the consent of the person4
– Cases in which the provision of personal information is specially necessary for improving public hygiene or promoting the sound growth of children and in which it is difficult to obtain the consent of the person
3.Request for disclosure, etc.
We will respond to requests by a customer to disclose, correct, or discontinue use of his/her personal data in our possession5.
Disclosure6Upon request by a customer, we will disclose his/her personal information
7, except for the following cases:
Cases in which disclosure might harm the rights or interests of the person8 or a third party
Cases in which disclosure might seriously impede the proper execution of the business of the entity handling personal information
Cases in which disclosure violates other laws
今回の練習問題は難しいと思います。法律関係のものは一文字一文字重みがあるので、慎重に作業を進めなければいけません。今回の読者はよくできており、またインターネットにあるリソースをうまく活用しています。殆どの大きな企業のサイトには、個人情報開示についてのポリシーが載せてあります。英語版がついている会社のサイトで見比べてみたり、また、政府の機関で発表されている英訳と比べたりするだけでもいい勉強になります。それでは、読者英訳を見ていきましょう。
1.タイトルの「公表」の訳を、Announcementにするのはちょっと違和感があります。確かに、辞書を引けば、to announceがすぐ出てきますが、これは個人情報の公表についての話なので、個人情報と合わせてみて、to announce personal informationが自然な表現になるかどうかテストしてみてください。すると、普通は言わない表現だということが分かるでしょう。この場合、本文に出る「開示」の訳に当たるdiscloseを使ったほうがいいでしょう。
2.We appropriately manage personal informationは正しい訳ですが、お客様の個人情報を集めてから、会社でどう扱われるかについての話なので、willを加える、あるいは、we take appropriate steps to manage personal information…のようにしたほうがいいのではないかと思います。
3.これは一貫性の問題です。項目1ではcustomersになっていますが、項目2ではthe customerになっています。どちらか一つにしたほうがいいと思います。こういう細かいところで丁寧に一貫性を保つことが大切です。
4.インターネットで検索してみると、「ご本人の同意」の訳出としてthe consent of the personはよく見ますが、何か落ち着かない感じがします。「ご本人」は、The person/ individual concernedあるいは The person whose personal data is in our possessionのように、誰のことなのかはっきりさせるほうがいいのではないかと思います。
5.読みやすい表現で素晴らしいです。
6.「開示について」をdisclosureだけにすると、「項目3で開示について既に書いてあるはずなのに、なぜまた開示についてのsub-sectionがあるんだ」と訳が分からなくなります。内容から見ると、開示に必要な条件が書いてあるので、conditions of disclosureなどにしたほうが分かりやすいと思います。
7.これは原文の意味を正しく反映していません。「ご本人にしか開示しない」というところがポイントだと思います。Onlyが必要です。
8.上の4を見てください。
法律関係の英訳に興味のある方にはLegal Writing in Plain English (Bryan A. Garner)をお勧めしたいと思います。結構読みやすい本で、練習問題もついていて、一般英文の書き方のためにもいい勉強になります。
【塾長英訳例】
Information disclosure under the “Act on the Protection of Personal Information”
1. Use of personal information
When asking clients to provide personal information directly in writing, our company will state the intended use of such information.
2. Provision of personal information to third parties
We will manage personal information obtained from clients in an appropriate manner, and will not disclose personal information to a third party without the consent of the individual concerned except in the following cases:
•Cases in which disclosure is based on the law
•Cases in which disclosure is necessary for the preservation of life, person, or property and in which it is difficult to obtain the consent of the individual concerned
•Cases in which disclosure is necessary in particular for improving public health or promoting the sound development of children and in which it is difficult to obtain the consent of the individual concerned
3. Procedure for responding to requests for disclosure and others
We will respond to requests for disclosure, correction or termination of use of personal information from the individual concerned.
Conditions of disclosure:
We will disclose personal information only to the individual concerned.
However, we will decline a request for disclosure in the following cases:
Cases in which disclosure may infringe upon the rights or interests of the individual concerned or a third party
Cases in which disclosure may prevent the company handling personal information from carrying out its operations properly
Cases in which disclosure violates other laws and regulations
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法律関連文書の翻訳は原文の意味を確実に把握し、正確に英訳することが何よりも大切です。一度世に出てしまうと、間違いがあっては取り返しがつかない状況を生むこともあります。ただ、学習を積むことによって得るべき知識は、一般文書の翻訳に比べると目標がより明確だと思います。是非頑張ってください。それでは次回テーマ(宿題)を以下にお知らせします。今度は環境分野の面白いニュース記事です。読者のみなさんからの英訳例をお待ちしています。10月28日(水)17時までにこちらまでお送りください。
【宿題】
捨てられるビニール傘、街角で再利用
首都圏で毎週末開催する「MOTTAINAIフリーマーケット」で4月以降、不要になった無色透明のビニール傘の寄付を募っている。ビニール傘は、専用のシールをはって渋谷で無料レンタル傘 「シブカサ」として貸し出す。
「シブカサ」は、寄付により集まった不要のビニール傘を若者の町「渋谷」にあるカフェや雑貨店、本屋などで無料で貸し出すプロジェクト。コンビニエンスストアなどで販売される無色透明のビニール傘は急な雨などに便利だが、その多くが自宅やオフィスで眠っていたり、捨てられたりしてしまう。そんなビニール傘を都内の大学生らが作る社会起業プロジェクトチーム「SOL」が集め、渋谷のお店に無料のレンタル傘として配布し、リユースにより無駄な資源を使わないようにしようというもの。所有者が特定されていない傘や放置・捨てられた傘は使用していない。
MOTTAINAIフリーマーケットでは、これまで本やCD、DVDなどを回収してきたが、シブカサプロジェクトに賛同し、不要になった無色透明のビニール傘も回収することにした。
(毎日.JP/MOTTAINAIニュースより抜粋)