TRANSLATION

第8回 「判決文の翻訳 – Translating Judgments」

エベースト・キャシー

Nuts and bolts of legal translation

なぜ、判決文の英訳は依頼されるのでしょうか?

● 訴訟に関わる当事者が外国人で、当事者本人が内容を知りたい

●ある企業は同じ業界の企業が関わる訴訟の判決内容を知っておきたい

●ある企業は重要な法的問題が含まれる判決の内容を知っておきたい

●弁護士が訴訟の判決を過去の実例として知りたい・使いたい

●個人的な理由。たとえば、前科のある方のビザ申請のためを考えられます。

判決文はどんな文書なのでしょうか?

とにかく長い判決書が多いです。特に民事事件は、刑事事件より判決文が長いです。

ですが、内容がある程度くり返されています。例えば、結論は主文にほぼ同じ文書です。そして、フォーマットや表現・用語がある程度決まっています。

判決文は会社同士のトラブル(例えば、知的所有権の侵害)や人間同士のトラブル(例えば離婚など)の民事事件から、犯罪を取り締まる(例えば暴力や法律違反)刑事事件まで広範な事件に及ぶ文書でもあります。

また刑事件の内容によりますが、精神的に訳しづらい場合があります。

判決文はどこの裁判所から出されていますか?

すべての裁判所から出ます!ですので、まず、日本の裁判制度を少し、勉強しましょう!

●最高裁判所 ~ Supreme Court

日本の最高の裁判所です。

http://www.courts.go.jp/によると、

最高裁判所は、

「上告及び訴訟法において特に定められた抗告について裁判権を持つほか、人事官の弾劾に関する裁判について、第一審かつ終審としての裁判権を持っています。

上告には、まず(1)高等裁判所の第二審又は第一審の判決に対する上告があり、これが上告事件の大部分を占めますが、そのほかにも(2)地方裁判所若しくは家庭裁判所の第一審の判決又は簡易裁判所の刑事の第一審の判決に対するいわゆる飛躍上告、(3)高等裁判所に対する上告又は控訴で一定の事由に基づき移 送されるもの、(4)高等裁判所の民事の上告審の判決に対するいわゆる特別上告、(5)刑事の確定判決に対する非常上告があります。」

最高裁判所は最終の終審裁判所ですので、最高裁判所の判決文の英訳を頼まれたら、おそらくその前の段階で、高等裁判所・地方裁判所・家庭裁判所・簡易裁判所からの判決文を参考資料として使えるのではないでしょうか。もちろん手に入れる場合に限ります。最高裁判所までいく訴訟はメディアでも取り上げられている可能性もありますので、英語版のメディアをチェックして用語を確認するという手もあります。

●高等裁判所 ~ High Court

日本では、8か所の大都市プラス6か所の都市に支部プラス東京高等裁判所に知的財産高等裁判所(特別の支部)、計15ヶ所の高等裁判所があります。

http://www.courts.go.jp/によると、

高等裁判所は、

「地方裁判所若しくは家庭裁判所の判決又は簡易裁判所の刑事の判決に対する控訴、地方裁判所の民事の第二審判決に対する上告及び簡易裁判所の民事の判決に対する飛躍上告、地方裁判所又は家庭裁判所の決定に対する抗告について裁判権を持っています。

そのほか、高等裁判所は、選挙に関する行政訴訟、内乱罪等に関する刑事事件について、第一審裁判権を持っており、東京高等裁判所は、さらに、公正取引委員会や特許庁のような準司法的機関の審決に対する取消訴訟について、第一審裁判権を持っています。」

高等裁判所が主に第二審の裁判所ですので、最高裁判所と同様、地方裁判所・家庭裁判所・簡易裁判所からの判決文を参考資料として使える可能性があります。

●地方裁判所 ~ District Court

全国に50か所と150ヶ所以上の支部があります。

http://www.courts.go.jp/によると、

地方裁判所は、

「原則的な第一審裁判所で、他の裁判所が第一審専属管轄権を持つ特別なものを除いて、一審事件のすべてを裁判することができるものとされています。さらに、地方裁判所は、簡易裁判所の民事の判決に対する控訴事件についても裁判権を持っています。」

●家庭裁判所 ~ Family Court

家庭裁判所は家庭内の紛争や少年が関わる事件を扱っています。最初の段階では未公開です。http://www.courts.go.jp/によると、

「家庭裁判所においては、夫婦関係や親子関係の紛争などの家事事件について調停や審判、非行を犯した少年の事件について審判を行います。また、平成16年4月1日からは、人事訴訟法の施行に伴い、夫婦、親子等の関係をめぐる訴訟についても取り扱うことになりました。」

●簡易裁判所 ~ Summary Court

全国に400か所以上の簡易裁判所があります。

http://www.courts.go.jp/

によると、簡易裁判所は、

「民事事件については、訴訟の目的となる物の価額が140万円を超えない請求事件について、また刑事事件については、罰金以下の刑に当たる罪及び窃盗、横領などの比較的軽い罪の訴訟事件等について、第一審の裁判権を持っています。」

裁判所はどんな事件を扱うのでしょうか?

●民事事件:労働事件・知的財産権事件・執行事件・破産事件・保護命令事件

●行政事件

●刑事事件

●家事事件:

  人事訴訟:

  離婚

  成年後見制度に関する審判

  行方不明者に関する審判

  親子に関する審判    

  相続に関する審判   

  保護者選任に関する審判

  戸籍上の氏名や性別の変更などに関する審判   

  年金分割の割合を定める審判

  調停:

  夫婦関係や男女関係に関する調停

  親族関係に関する調停

  子どもに関する調停   

  相続に関する調停

●少年事件

●医療観察事件

判決文の内容 (例文)

判決文の実例を見てみましょう。インターネットで検索するといくつかの例文が出てきます。また、以下のサイトでも実例を見ることが出来ます。

http://www.courts.go.jp/search/jhsp0010?action_id=first&hanreiSrchKbn=01

http://www.courts.go.jp/english/judgments/index.html

以下の例文はフォーマットだけです。

_____

平成XX年(ワ)* 第XXXX号 XXX求事件

判決

○○県○○市○○***番地

  原         告     ○   ○   ○   ○

東京都○○区○○*丁目*番*号

  被         告     △   △   △   △

主文

事実及び理由

第1 請求

(民事原告からの請求内容)

1 前提事実

2 法律の規定

3 原告らの請求の原因

4 被告の主張(争点)

第2 事案の概要

(どのような請求事案か)

第3争点に対する当事者の主張

第4 当裁判所の判断

1 要約

2 認定事実

3 説明義務違反について

4 損害の算定について

第4 結論 

(主文の通り判決する)

XX裁判所第XX民事部

裁判長裁判官 XX XX

裁判官 XX XX

_____

*の意味についてはこちらで確認できます:

_____

Date of the judgment Case Number (Wa) Case Name

Date of the judgment Case Number (Wa) Case Name

Judgment

Address

  Plaintiff     ○   ○   ○   ○

Address

  Defendant     △   △   △   △

Main Text of Judgment

Facts and Reasons

1. Claims

1. Outline of the facts

2. Legal provisions

3. Grounds for claims from plaintiff

4. Assertions of defendant (dispute)

2. Summary of case

3. Asserts of parties concerning regarding dispute

4. Judgment by the court

1. Summary

2. Findings

3. Breach of accountability

4. Assessment of damage

5. Conclusion

XX Court XX XX Civil Affairs Division

Presiding Judge Justice XX XX

Justice XX XX

_____

判決文に使われる用語の例:

判決文 Judgment (どこの国でも、リーガル分野ではjudgementを使ってはいけません)

最高裁判所長官 Supreme court chief justice

最高裁判所判事 Supreme court justice

裁判官 Justice

第三小法廷 3rd Petty Bench (Supreme Court)

高等裁判所長官 High court chief justice

判事 Judge

家庭裁判所調査官 Family court probation officer

検察官 Public prosecutor

弁護士 Attorney, counsel

下級裁判所 Lower courts

口頭弁論 Oral proceedings

上告 Appeal

上告理由 Grounds for appeal

確定審決 Final and binding decision

審決 Trial decision

審決書 Written decision

訴訟 Lawsuit

審理 Trial

法廷 Court

審判 Trial, ruling

訴えの提起 File a suit

証拠調べ Examine evidence

捜査 Investigation

被告人 Defendant

破棄自判 Quashed original ruling and issued own judgment

判例集巻 Court Reports

裁判種別:判決 Type of judgment: Ruling

みなす Deem

推定する Presume, assume

評決 Verdict

最高裁判所民事判例集 Supreme Court Reports (civil cases)

最高裁判所刑事判例集 Supreme Court Reports (criminal cases)

高等裁判所民事判例集 High Courts Reports (civil cases)

高等裁判所刑事判例集 High Courts Reports (criminal cases)

下級裁判所民事判例集 Lower Courts Reports (civil cases)

下級裁判所刑事判例集 Lower Courts Reports (criminal cases)

家庭裁判所月報 Monthly Bulletin on Family Courts

刑事裁判月報 Monthly Bulletin on Criminal Courts

行政事件裁判例集 Administrative Law Cases Reports

労働関係民事裁判例集 Labor Law Reports (civil cases)

労働関係刑事裁判例集 Labor Law Reports (criminal cases)

判例時報 Law Cases Reports

判例タイムズ Law Times Reports

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記事を書いた人

エベースト・キャシー

イギリス出身。シェフィールド大学で日本語と経営学を専攻した後、1998年JETプログラム(国際交流員)で来日。大分県で3年間国際交流員の仕事をしたのち、石垣島へ。2001年フリーランス翻訳業開始。5年間の石垣島生活ののちに大阪滞在、1年間の香港滞在を経て、現在大阪市在住。2009年にオリアン株式会社を設立して、特に契約書など法律関係の文書を得意としています。

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