第4回「契約書によく使われる用語〜中級編」
リーガル翻訳で一番大切なのは用語の一貫性です。同じ文書の同じ用語を同じ英語に訳すという意味です。そのため、間違った用語を使ってしまった場合は同じ文書内で間違い続けてしまいます。理想としては文脈に合う用語を使うことですが・・・。
リーガル翻訳の場合、初回に紹介しました Standard Bilingual Dictionaryをまずチェックすることですが、以前に書いたように、用語の使い方はリーガル分野のすべての文書に当てはまる訳ではありませんので、文脈を参考に当てはまる用語を選びましょう。
今回、契約書によく使われる用語や表現を紹介したいと思います。
■まずは、契約書の構成 / Basic structure of contracts
頭 書 Premises
前 文 Recitals
本 文 Body
節 Section
章 Chapter
条 Article
項 Paragraphまたは Clause
号 Item
ただし書 Proviso
末尾文言 Execution Clause
「2条3項4号に規定されている」
stipulated in Article 2.3.4 またはstipulated in item 4 of paragraph (clause) 3 of Article 2
■次に契約書によくある条/Articles which often appear in contracts
総則 General Provisions
定 義 Definitions
範囲 Scope
趣旨・目的 Purpose / Objective
個別契約 Individual Contract
支払条件 Payment
検査 Inspections
秘密保持 Confidentiality
秘密保持義務 Duty of Confidentiality
契約期間 Term of Agreement
契約の終了 Termination
契約終了後の義務 Obligations after Termination
通知 Notice
不可抗力 Force Majeure
損害賠償 Damages
仲裁 Arbitration
契約の譲渡 Assignment
契約の変更 Amendment
完全合意 Entire Agreement
合意管轄 Agreed Jurisdiction
準拠法 Governing Law
協力義務 Duty to Cooperate
協議 Consultation
雑則 Miscellaneous Provisions
補則 Auxiliary Provisions
附則 Supplemental Provisions
解約・解除 Cancellation*
※同じ契約書に解除も解約も使われる場合があります。この場合解除をcancellation解約をterminationと訳せます。
解除は当事者間に有効に締結された契約関係を終了させて、最初から契約を無かったことにするという意味です。英語ではcancellationもrescissionも使えます。
解約は、最初から無かったことにできない契約(賃貸契約や労働契約)を当事者同士の合意のうえ途中で行う解除です。解除の時点で契約期間は終了します。英語ではterminationも使えます。
この複雑な状況の原因は民法のようです。民法では解除・解約の用語が不統一ですので、紛らわしいのです。原文の契約書があいまいな場合、訳文もあいまいにするべきですので、要注意です!!
■契約書によく出てくる用語/Terminology often found in contracts
施行期日 Effective date
秘密保持の違反 Breach of confidentiality
利益相反 Conflict of interests
解釈 Interpretation
履行 Performance
不履行 Non-performance
地方裁判所 District Court
違反 Breach, violate
侵害 Infringe
相手方 Other party
当事者 party concerned
疑義 Ambiguities
存続条項 Survival clause
満了 Expiration
期間の満了 Expiration of term
紛争 Disputes
■契約書によく出てくる表現/Expressions often found in contracts
前項に規定 prescribed in the preceding paragraph
前項の as provided for in the preceding paragraph
前項の規定により pursuant to the provision of the preceding paragraph
ただし、…は、この限りでない provided,however,that this shall not apply
にかかるに係る pertaining to
に定めるところにより pursuant to the provision of / as provided for by
in accordance with that set forth in
定める stipulate, determine, set forth, provide for, prescribe,establish, appoint
以下に定める set forth below
別途定める prescribed separately, set forth separately, specified separately
各号に定める set forth/specified in each of the following items
おそれがある risk, threat
に基づく based on / pursuant to / in accordance with
の規定にかかわらず notwithstanding the provision of
の規定により pursuant to the provision of
みなす shall be deemed
以下「…」という hereinafter referred to as “…”
を負うことなく without incurring
することを妨げない shall not preclude
するよう努めなければならない must endeavor to
「なお」から始まる文書 訳しなくていい
10以下 10 or less
10以上 10 or more
することができる may
することができない may not
とする・すること shall
しなければならない must *
してはならない must not
※権利と義務を区別するために、権利はmay、義務はmustを使います。
「しなければならない」の義務はshallと訳する場合もありますが、同じ文書で「しなければならない」と「とする」がある場合、すべてshallにすると読む側としては意図(解釈)が分かりにくいので控えるべきです。そのため、「しなければならない」をmustと「とする」をshallに使い分けることをお勧めします。
しかし、インターネットなどで契約書〜訳文ではなく、もともと英語で書かれた契約書〜をみると、mustよりshallのほうがはるかによく使われているは事実です。数年前shallをwillにするというplain Englishの運動が始まりましたが、まだ本格的に広がり始めたばかりですのでどうなるか、英訳への影響はどの程度かは注目すべきかもしれません。Willには義務の意味合いはありません。
専門家の中では、shallとmustの使い分けについて同意する方が多いようですが、willを積極的に使っている方はまだ少ないようです。
とにかく、will、must、may、と shallを一貫して使うことを勧めています。
この件に関してもっと詳しく知りたい方はBryan A. GarnerのLegal Writing in Plain EnglishやGeorge W. KuneyのThe Elements of Contract DraftingやKenneth A. Adams のA Manual of Style for Contract Drafting などの本をお勧めします。
そして何度も書くようですが、曖昧・間違っている原文の場合、訳文も曖昧・間違っている訳文にすべきなのです。
さらに、用語の意味を確認したい場合は以下のサイトをお勧めします:
http://www.tohmatsu.com/view/ja_JP/jp/knowledge/glossary/contract/index.htm#k20