TRANSLATION

第3回「契約書の英訳〜応用編」

エベースト・キャシー

Nuts and bolts of legal translation

契約書の英訳〜応用編

今回は誰でも見たことがある秘密保持契約書(別名:守秘義務契約書)に注目したいと思います。秘密保持契約書と守秘義務契約書の内容は同じです。どちらも英語で一般的にNon-disclosure Agreement (NDA)と訳しますがConfidentiality Agreement、Secrecy AgreementやConfidential Information Agreementと言う表現もあります。

翻訳する前に、秘密保持契約書とは、どのような文書なのかを考えてみましょう。

まず、秘密保持契約書の目的について。

秘密保持契約書は秘密・機密情報を守る為の契約書です。開示された情報を他人に漏らさないということを当事者間で約束する文書です。約束することによって、機密を守りたい当事者と情報を受ける当事者との間に信頼関係を築くことが出来ます。秘密保持契約書は企業と企業との間、及び企業と社員との間でも交わされます。基本となる要素が揃っていれば、どちらの当事者でも秘密保持契約書を作成できますので、情報を開示する側だけではなく、開示された側でも、「開示された情報の取り扱いに注意する」という旨を盛り込んだ秘密保持契約書を作成することもできます。

秘密保持契約書に重要な要素

*当事者はだれ?

企業もしくは個人など、契約書の当事者をはっきりさせる必要があります。

*秘密情報の範囲の定義 

情報の範囲を定義することは、現代では特に大事です。 

開示する側は、できる限り幅広く範囲を定義したがるものですが、逆に開示される側は、できる限り具体的に範囲を定義したがります。 また、秘密情報は、文書だけではなく、口頭情報を含む場合もあります。当事者が無許可で秘密情報を使用してしまうと、裁判で訴えられたり、損害賠償金を支払わされたり、何れかの措置を取らなければならないことがあります。

*秘密情報の開示可能な範囲 (開示された当事者の義務)

秘密情報の範囲を定義することだけではなく、開示できる範囲についても定義する必要があります。従って、契約書には開示される側の当事者の使用制限や情報の保持義務も記載されています。

*秘密情報に含めていないもの

通常は秘密・機密保持しなくてもよい情報があります。たとえば、開示される側の当事者が開発、発見した情報や既に公知の情報など。このような情報には保持義務がないということは契約書で明らかにされています。また訴訟で情報を開示してよいか否かも記載される場合が多いです。

*契約の有効期間

秘密保持契約書には秘密保持義務がいつまで続くかを明確に記す必要があります。一定の期間が決められている場合が多くみられますが、当該情報が公知されるまで、という場合もありますし、契約書の終了後でも有効であり続ける条項が含まれる場合もあります。その場合の期間は終了後1年から5年ということが多いのですが、最終的には当事者間で決めることです。ただし、当事者はその管理ができなくなるため、有効期間が永遠に続くという内容の契約は一般的ではありません。

*その他の条項

上記の他、合意管轄、資料の返還、損害賠償金責任の条項などが秘密保持契約書に記載される場合があります。

さて、秘密保持契約書がどのような内容の文書化であるのかが分かったところで、例文とその対訳を紹介したいと思います。

秘密保持契約書

XXXX(以下、「甲」という)と XXXX(以下、「乙」という) は、乙が甲の依頼を受けて行うXXXX業務(以下、「本件業務」という) に係る機密保持に関し、次のとおり契約を締結する。

第1条 (定義)

本契約において、秘密情報とは、乙が甲の依頼を受けて行うXXXX業務に関して、甲が乙に書面その他の記録媒体により開示する一切の情報をいう。

但し、以下の情報は秘密情報に含まれないものとする。

1 甲から乙へ開示された時点で公知であったもの。

2 甲から乙へ開示された後に公知となったもの。

3 甲から乙へ開示された時点で既に乙が保有していたもの。

4 甲に対して秘密保持義務を負わない第三者から合法的に取得したもの。

第2条 (秘密情報の非開示及び非使用)

乙は、甲から開示された秘密情報を秘密に保持するものとし、甲の文書による同意を得ない限り、第三者に開示又は漏洩してはならない。

秘密情報は、本件業務遂行のために使用する目的でのみ甲から乙に開示されるものであり、乙は、甲の文書による同意を得ない限り、他の目的のために秘密情報の使用を行ってはならない。

第3条 (秘密情報の返還)

本件業務が終了した場合又は甲から要求された場合には、乙は、本契約に基づき甲から受領した秘密情報を、甲の指示に従って、甲に返還するものとする。但し、返還が困難であるものについては、破棄することにより返還に代えることができるものとする。

第4条 (契約条項の変更)

本契約条項の変更は、甲及び乙の記名押印ある書面によってのみなされるものとする。

第5条 (疑義の解釈)

本契約に定めのない事項その他本契約に関し生じた疑義については、甲及び乙が誠意をもって協議のうえ解決するものとする。

第6条 (合意管轄)

本契約に関する一切の訴訟については、東京地方裁判所を専属的合意管轄裁判所とする。

Non Disclosure Agreement

This Agreement is made and entered into by and between Company ZZZ (hereinafter referred to as the ‘Customer’) and Company YYY (hereinafter referred to as the ‘Company YYY’) concerning the maintaining of confidentiality in relation to XXXX work (hereinafter referred to as the ‘Work’) undertaken by the Company YYY at the request of the Customer.

Article 1 (Definitions)

In this Agreement confidential information shall mean all information disclosed by the Customer to Company YYY in documents or other recorded media relating to XXXX work undertaken by the Company YYY at the request of the Customer; provided however that the following information shall not be included in the confidential information.

(1) Information already in the public domain at the time it is disclosed to Company YYY by the Customer.

(2) Information which enters the public domain after it is disclosed to Company YYY by the Customer.

(3) Information already in the possession of Company YYY at the time it is disclosed to Company YYY by the Customer.

(4) Information legitimately obtained from a third party not subject to the obligation to maintain confidentiality with regard to the Customer.

Article 2 (Non-Disclosure and Non-Use of Confidential Information)

1. Company YYY shall maintain the confidentiality of confidential information disclosed by the Customer and shall not disclose or divulge information to a third party without obtaining written consent from the Customer.

2. Confidential information shall be disclosed to Company YYY by the Customer for the sole purpose of use in order to carry out the Work and Company YYY shall not use the confidential information for any other purpose without obtaining written consent from the Customer

Article 3 (Restitution)

Company YYY shall return confidential information received from the Customer based on this Agreement to the Customer in accordance with instructions from the Customer when the Work is complete or upon request by the Customer; provided however that information which is difficult to return may be destroyed in substitute for restitution.

Article 4 (Alterations to Terms and Conditions)

Alterations to the terms and conditions of this Agreement may only be made in the form of a written document signed and sealed by the Customer and Company YYY.

Article 5 (Interpretation of Ambiguities)

Matters not stipulated in this Agreement and any other ambiguities which arise in relation to this Agreement shall be settled through consultation in good faith by the Customer and Company YYY.

Article 6 (Agreed Jurisdiction)

The Tokyo district court shall be the agreed court with exclusive jurisdiction for all litigation in connection with this Agreement.

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他の契約書を訳す場合にも、まず契約書の目的や重要な要素を理解することが大事ですね。

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記事を書いた人

エベースト・キャシー

イギリス出身。シェフィールド大学で日本語と経営学を専攻した後、1998年JETプログラム(国際交流員)で来日。大分県で3年間国際交流員の仕事をしたのち、石垣島へ。2001年フリーランス翻訳業開始。5年間の石垣島生活ののちに大阪滞在、1年間の香港滞在を経て、現在大阪市在住。2009年にオリアン株式会社を設立して、特に契約書など法律関係の文書を得意としています。

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