第2回「契約書の英訳〜入門編」
契約書は法律文書ですので、弁護士や司法書士によって書かれていると思われている人は少なくないでしょうが、実は契約書は誰によって書かれても良いのです。誰もが書いて良いのに、法律文書として扱われます。う〜ん・・・ちょっと複雑な現状ですね!
国によって契約書の形式は違います。もちろん日本の形式も独特です。
たとえば、
英文契約書の日付は、よくThis Agreement is made on this X day of X (month), X (year)…から始まるように、頭書に書かれていますが、和文契約者の日付は文末に記載されます。
同じように、英文契約書では当事者の住所は頭書に書かれている場合が多いのですが、和文契約書の場合、当事者の住所は最後に書かれます。英文契約書では、having its registered office at…という表現を良く見ます。
契約書を英訳するにあたり、形式をどうすれば良いかと悩まれる翻訳者さんはたくさんいるのではないでしょうか。この悩みを解決するために、まず、何のために契約書を英訳しているかを考えるべきだと思います。
たとえば、当事者が外資系企業、もしくは当事者の役員が外国人の場合、契約書に書かれていることを知りたい、あるいは当事者が外資系企業に合併または買収されたため、その新しい親会社が契約書の内容を知りたい、等。つまり、契約書の英訳を依頼する目的は、ほとんどの場合内容を理解することであると言ってもいいでしょう。参考としての英訳が必要なことが多い、ということです。
だからと言って、適当に訳していいということでは決してありませんが、内容を知るため、という場合なら、外国で書かれた契約書と同じような形式に敢えて合わせなくても良いでしょう。むしろ、変えない方が良い場合もあると思います。と言いますのは、交渉中や会議中など、日本語版と英語版の契約書に沿って話し合う際に、形式を変えてしまうと話がスムースに進まなくなることがあるからです。
また、日本語で書かれた契約書は当然日本の法律のもとに書かれているので、海外でそのまま通すということはありません。慣れた企業であれば、訳文を弁護士に提出し、現地の法律に合わせてもらいます。
さて、契約書の英訳が参考のために必要だと分かったところで、気を抜くわけにはいけません。社内用が主たる使用用途だとしても、訳文が何らかの理由で裁判に使われることもあるでしょうから。翻訳依頼があった段階で、訳文が裁判で使われると分かっていれば、もちろんより一層慎重に訳さなければなりません。
さて、さて、今回は入門編ですので、いくつか基本的なことを見てみましょう。
まず、甲乙丙の扱いはどうしたらいいのかを考えましょう。
一番分かりやすいのは会社名を使うことです。
もちろん、契約書によって、Lessor – Lessee, Licensor – Licensee, Buyer – Seller,
Company – Employee などもOKです。
会社名も立場も不明な場合、Company A – Company BもしくはFirst Party - Second Partyという方法もあるかと思いますが、できるだけ避けた方がいいでしょう。特に、AとBとだけ表記するのは絶対に避けるようにしましょう。
当事者を大文字にする翻訳者もいますが、海外ではこれは一般的ではありませんし、文書全体が見づらくなると思いますので、大文字にする必要はありません。最初の文字を大文字にするだけで十分です。
次に数字の扱いを考えましょう。
リーガル分野以外の場合、数字の一から十まではone, twoのように文字で書いて、それより大きな数字については1,2などと数字で書くのが一般的です。しかし、契約書の場合はなるべくすべての数字を文字で書いて、そのあとに付した括弧内に数字を入れるのが一般的です。例えば、one (1), thirty (30)など。
しかし、金額の表記方法は少しあいまいです。英文の契約書では以下のように2つのパターンを目にします。
1. three million six hundred thousand yen (3,600,000 JPY)
2. 3,600,000 JPY (もしくは¥3,600,000)
1のように、契約書内で、three million six hundred thousand yen (3,600,000 JPY) と、全ての数字を文字で書いた場合、少し分かりにくいとの考えもありますが、何れにしても、数字の扱いをどうするのかを決め、その方法を踏襲して下さい。特に、同じ文書内では数字の表記方法を統一することはとても大切です。
最後に頭書と末尾の「成句」を考えましょう。
頭書の例
__________ (以下「甲」という。)と__________ (以下「乙」という。)とは、___に関して、以下のとおり契約(以下「本契約」という。)を締結する。
This agreement (hereinafter referred to as this ‘Agreement’) is made and entered into by and between __________ (hereinafter referred to as the ‘Company AAA’) and __________ (hereinafter referred to as the ‘Company BBB’) as follows concerning ________.
末尾文の例
以上、この契約の締結を証として、本書2通を作成し、甲乙双方が記名押印の上、各1通ずつ保有するものとする。
In witness whereof, the parties hereto have caused this Agreement to be executed by their representatives in duplicate, each party retaining one (1) copy thereof respectively.
これらの例にいくつか類似しているパターンがあります。末尾文の例文にて紹介します。
以下の例文は実際に公用の契約書にも使用されています:
IN WITNESS WHEREOF, each of the parties set out below has caused this Agreement to be duly executed by its respective, duly authorized officer as of the date first above written.
IN WITNESS WHEREOF, the Parties have executed this Agreement in duplicate originals by their proper officers as of the date and year first above written.
IN WITNESS WHEREOF, the parties have entered into this Agreement on the dates set forth below.
IN WITNESS WHEREOF, the parties hereto have duly signed this Agreement as of the day and year first above written.
IN WITNESS WHEREOF, the parties to this Agreement by their duly authorized representatives have executed this Agreement as of the date first above written.
IN WITNESS WHEREOF, each of the undersigned has caused this Agreement to be duly executed and delivered in the location set forth below its signature by its proper and duly authorized officer as of the date hereof.
上述しましたが、英文契約書の場合、日付は最初の方に書かれているため、例文にあるような「as of the date first above written」という表現は使えない場合が多いかもしれません。何れにしても、日本語の原文に合わせて毎回多少の調整をする必要はあります。
またexecuteにはsignという意味が含まれているので、sign, stamp their sealなどを記載する必要はありません。
今回は以上です。
次回は応用編を予定しています。お楽しみに。