TRANSLATION

第1回入門編「リーガル翻訳:法令の翻訳について」

エベースト・キャシー

Nuts and bolts of legal translation

今月から、ネイティブ翻訳者として現役でご活躍の、田本キャシーさんによる日英法律文書講座、「Nuts and bolts of legal translation」が始まります。初回は入門編と称し、まずはリーガル翻訳に役立つ情報についてご紹介頂きました。既に翻訳者としてお仕事をしている方にも、翻訳者を目指してお勉強中の方にも、必見のコンテンツです!

リーガル翻訳とは・・・
リーガル翻訳はすでに注目を集めていますが、これからより脚光を浴びる分野のひとつであると言って差し支えないでしょう。
個人レベルでは、海外に行く際のビザ申請のために、前科の記録や過去の犯罪歴などの情報が必要となる場合があるようですし、また、日本では外国人の数が増えていますので、外国人の被害者や加害者も増える可能性が考えられます。
また、法人レベルでは、輸出入に関わる企業、海外に進出する日本企業や日本に投資する海外の企業、外国人を雇う日本企業など、どれも法律と関わりがある可能性は高いので、リーガル翻訳の需要が減るとは思えません。

今回、法律翻訳そのものについて考えたいと思います。日本ではほかの国とは違い、法律を積極的には英訳してきませんでした。しかし、最近あるプロジェクトが立ち上げられ、その遅れを取り戻そうとしています。

そのプロジェクトは  http://www.japaneselawtranslation.go.jp/ です。
このサイトはリーガル翻訳者にとって欠かせないリーガル用語の参考の第一基準です。しかし、リーガルだけではなく、さまざまな分野に関わる翻訳者にとっても、非常に重要なサイトです。なぜなら、法令の名前や法律の引用はどの分野にも出てくるからです。
今までこのサイトの存在を知らなかったとしても、これからサイト内にある用語に倣って統一しても遅くはないでしょう。

サイトの利用方法について紹介いたします。まず目を通して頂きたいものはヘルプファイルです。そして次に法令用語日英標準対訳辞書 (Standard Bilingual Dictionary)を見てみましょう。この法令用語日英標準対訳辞書はたびたびこのコーナーに出てくると思います。
こちらのサイト内にはいくつかの法律の英訳がすでに載せられていますし、これからその数も増えることでしょう。どれも「公定訳」ではないと言われていますが、おそらくこちらにある訳文は公定訳に一番近いものでしょう。また、法令用語日英標準対訳辞書はPDFでダウンロードできます。法令用語日英標準対訳辞書の最初のほうに、法令についての用語の説明があります。法令を訳す場合には必ず何度か読むようにしてください。

このサイトには3つの検索機能があります。検索機能をうまく使うためにいくつかのポイントを述べます。

まず、法令検索機能。
ここではひとまずサイトの日本語版を使いましょう。これには理由があります。
たとえば、翻訳者にとって重要な法令の一つである、「個人情報の保護に関する法律」の英語タイトルを検索してみましょう。

英語版のLaw Search機能を使うと、結果として18件表示されますが、どれが「個人情報の保護に関する法律」に当てはまるかが非常に分かりづらいです。しかし日本語版で検索すると3番目の結果に同じ日本語のタイトル、「個人情報の保護に関する法律」が出てきます。リンクをクリックすると法令の英訳、「Act on the Protection of Personal Information」が出てきます。そのほかの17件の結果は「個人情報の保護に関する法律」の名前が含まれている法令です。

次に、まだ英訳されていない法令を検索してみましょう。
検索画面で、「未翻訳法令の法令名を含む」にチェックを入れると出てきます。(チェックを入れなければ出てきません。)チェックを入れていない場合でも確認することはできます。
たとえば「水道法」。チェックを入れない場合、英語版でも日本語版でも結果として2件あります。2番目の結果「食品安全基本法」をクリックし、次のページの一番上にある、「検索キーワードのハイライト表示」をチェックし、スクロールすると、第二十四条に水道法がハイライトされています。対訳を見ると「Waterworks Act」と訳されていることが分かります。
このように実際にサイトを使用するとすぐに気が付くと思いますが、ハイパーリンクが貼られていますので、すぐにほかの法令を見ることができます。これもサイトの便利な機能の一つです。

2番目の検索機能は文脈検索機能です。
たとえば、英語版でも日本語版でも「水道法」で検索すると、同じ「食品安全基本法」の二十四条にたどりつきます。しかし「個人情報保護法」を文脈で検索してもすぐには結果が出ず、少し分かりづらいので、両方の検索機能を使ってみることをお勧めします。この検索機能は用語の実例の確認をするのに大変便利であると言われています。

3番目の検索機能は辞書検索機能です。
PDFをダウンロードしても使いづらいので、用語はこちらの機能で検索するとよいでしょう。この機能はこれからさらに充実を図る機能だそうです。また法律関連用語だけではないので、ほかの分野を訳すときにもこちらで検索するといいでしょう。結果には法律へのハイパーリンクが貼ってありますので、用語を使用している法令をすぐに確認できます。

サイトにはすでに訳されている法令の対訳がありますので、とても便利です。特に、原稿に法令の一部が引用された場合などには有効です。しかし、ここで一つ注意することがあります。実はサイトに書かれている英語の質はあまり良いものではありません。フリーで使用できるサイトなので多くを求めてもしょうが無いのですが、残念ながら、ネイティブの訳文ではない場合が多いと思われます。そして法令用語日英標準対訳辞書の英語も実は日本人によって決められたもので、不自然な場合があります。本当に便利なサイトですが、公定訳ではないことを考えると、特に文法的な間違いなどについては、自分の原稿に相応しい英語に多少変えてもよいでしょう。なるべく用語や法令の名前を変えないほうがよいのですが、文脈がすべてですので、用語を文脈に合わせることが望ましいです。

ただ、新たに英訳される法令は必ず法令用語日英標準対訳辞書を使わなければならないという決まりがあるそうですので、一部の引用ではなく、法令そのものすべてを英訳する場合は必ず用語を統一してください。

さて、この数年で一番大きな法令に関する用語の変化で、翻訳者にとって重要なものは Law con

cerning… が、 Act onに変わっていることです。
まだLaw concerningという言い方は残ってはいるようですが、いずれAct onに移行するでしょう。また、今まで法令用語日英標準対訳辞書とは異なる用語を使っていたとしても、文脈が合っているのであれば、今後は法令用語日英標準対訳辞書のとおりに訳すことは重要です!
ちなみに日本の法律を勉強したい方にはドイツの法律を勉強することをお勧めします。なぜなら日本の法律はドイツの法律をベースに作成されているそうですので!

最後になりますが、こちらのサイトが一時的に使えなくなった場合には、

以下のサイトも使ってみてください:
http://www.kl.i.is.nagoya-u.ac.jp/koyori_web/ (文脈検索機能)
http://www.kl.i.is.nagoya-u.ac.jp/told (2009年までのデータ)

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記事を書いた人

エベースト・キャシー

イギリス出身。シェフィールド大学で日本語と経営学を専攻した後、1998年JETプログラム(国際交流員)で来日。大分県で3年間国際交流員の仕事をしたのち、石垣島へ。2001年フリーランス翻訳業開始。5年間の石垣島生活ののちに大阪滞在、1年間の香港滞在を経て、現在大阪市在住。2009年にオリアン株式会社を設立して、特に契約書など法律関係の文書を得意としています。

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